【鉄鋼春闘】高炉大手、きょう一斉回答 18年度と19年度、各1500円

 2018年の春季交渉で、新日鉄住金、JFEスチール、神戸製鋼所、日新製鋼の高炉メーカー4社はきょう14日、労働組合に対し、基本賃金改善を柱とする回答を一斉に行う。基本賃金への財源投入額(ベースアップに相当)は18年度、19年度で各1500円(1人当たり)。2年間で2500円だった前回(16年春闘)に比べ、500円の増額で、高炉メーカーは14年度から6年連続で賃上げを実施することになる。一方、60歳以降の就労問題では、労働環境の構築について組合側の要求に一定の理解を示し、この問題に関する労使による検討の場設置などを回答する。

基本賃金へ財源投入、16年春闘比で増額

 高炉大手が賃金改善を回答することで、他の鉄鋼メーカー、同関連企業にも賃上げの動きが広がりそうだ。

 労働組合は今春闘で、18年度3500円、19年度3500円の基本賃金改善を要求していた。経営側は組合要求に対し一定の理解を示し、財源投入要求に応えることにした。

 回答水準は各年1500円で、2年前の回答(16年度1500円、17年度1千円)を上回る。

 組合要求は16年春闘が2年間で計8千円だったのに対し、今回は同7千円。基幹労連が産別統一要求を切り下げたのは、事業環境などを勘案し「基幹労連全体でまとまれる水準」(基幹労連)を重視したためだが、高炉大手の回答水準は結果的に2年前を上回ることになる。

 鉄鋼大手では、デフレ環境が長期にわたり続いたこともあり、01年度から13年連続で基本賃金改善(ベースアップ)がなく、この間は「課題解決型」として基本賃金以外の労働条件が春闘のテーマとなった。再び賃金改善が主要テーマとなったは14年春闘からで、以降、17年度まで4年連続で賃上げが実施された(神戸製鋼所は15年度以降、3年連続)。今回の回答を受けて、6年連続の賃上げ実施となる。

解説/高炉大手が賃上げ回答/製造実力向上に不可欠/採用難への対応も

 鉄鋼の春季交渉はきょう14日の大手一斉回答を受けて、一つのヤマ場を越える。高炉大手4社は今回、18年度、19年度で各1500円の回答を示す。複数年協定(2年サイクル春闘)の前回春闘(16年)は1500円、1千円の回答だったため、総額では500円の増額となる。

 高炉各社が前回を上回る回答を示すのは、日本鉄鋼業の課題となっている製造実力向上にとって、現場の協力・士気向上が不可欠との判断が働いたためだ。また賃金底上げは、今後の採用難への対応という意味合いもある。

 高炉メーカー各社は17年度、需要環境の改善、鋼材価格の回復などを背景に増益となる見込み。18年度も堅調な需要環境が続くとみられているが、先行きについてはトランプ米政権の保護主義政策、北朝鮮問題に代表される地政学的リスクなどが表面化している。

 こうした中で2年目の19年度について賃上げを回答するのは、一定のリスクがあるのも事実。それでも2年分の回答を決断したのは、基本賃金の引き上げは『人への投資』あるいは『将来への布石』という側面を認めているからだ。

 また、鉄鋼労連時代に労使間で合意、採用した複数年協定(2年サイクル春闘)について、経営側は「労使間の諸問題を長期の視点で考えられる」(新日鉄住金の右田彰雄常務執行役員)など、一定評価している。業績によって支給額が決まる一時金の業績連動方式を採用していることもあり、先行きが不透明な中でも2年分の回答を示すことを重視した形だ。

 世界の鉄鋼業界では、中国など新興国の台頭が著しく、日本の優位性がいつまで保てるかは不透明だ。一方、技術力・品質力の源泉となる製造実力に関しても、多くの製鉄所が設置から40年以上が経過する中で、設備の老朽化問題を抱えるなど今まで通りの実力を発揮できるかは予断を許さない。日本鉄鋼業のものづくり力は現場従業員の熟練度や創意工夫によって支えられていると言っても過言ではない。現場の努力に報いるためにも「賃金改善」の重要度は増している。高炉メーカーは今回、現場への期待を込めて、賃金改善を回答したと言えそうだ。(高田 潤)

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