金属行人(3月14日付)

 時々、鉄鋼業に関する講演を頼まれることがある。参加者の興味関心事があらかじめ分かっている場合はやりやすいが、そうでない場合もある。年代や所属部門にばらつきが大きく、業界経験の差が大きいときは、参加者全員に有益な情報を伝えることは意外と難しい。講演の難しさは話をしながら場の雰囲気を読んでリスナーのニーズを把握し、瞬時に興味のある分野に話の内容を展開していくことだ▼最近のテーマでは、EV化が進むことによる鉄鋼需要への影響、AI(人工知能)やビッグデータ活用で将来の鉄鋼業がどう変わるのか、などが旬の話題。CO2排出削減のための水素還元製鉄、中国ミルなどが導入している薄スラブ連鋳など、鉄鋼プロセスの最新の動きにも関心を持っている人が多いと感じる▼講演では、鉄が大いなる可能性(ポテンシャル)を秘めることにも触れている。鉄の理論的強度は10ギガパスカルだが、ハイテンやホットスタンプなどで実用化されているのは2ギガまでにすぎない。鉄の持つ特性のうち、まだ2割しか使っていないのだ▼地球自体が鉄でできていて、人間の体内では鉄を使って酸素を運んでいる(ヘモグロビンで)など、鉄は身近な存在。鉄を深く知って鉄を究めたい。

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