東北の野球文化を豊かにするために OB選手らが支える楽天アカデミー事業

楽天イーグルスが創設された2005年からチームを支え、2013年の日本一に貢献した牧田明久選手(2016年現役引退)も、現在はアカデミーで熱心な指導を続ける【写真提供:(C)Rakuten Eagles】

地元の星になれるか? 楽天ジュニア出身の西巻は現在アピール中

 ドラフト6位で楽天に入団した高卒ルーキー・西巻賢二内野手が元気だ。春季キャンプでは1軍メンバーに名を連ね、オープン戦でも期待されていた堅実な守備のほか打撃でもアピール。狙い球を鋭く振り抜く思い切りの良さなどで徐々に評価を上げている。

 その西巻が“楽天イーグルスジュニア”出身であることがドラフト時などに話題となった。NPBでは2005年よりセ・パ12球団が地域の小学5、6年生を中心に編成した代表チーム(ジュニアチーム)を編成して戦う「12球団ジュニアトーナメント」を年末に開催している。

 西巻は2011年の楽天のジュニアチームのメンバーに選ばれ、この大会に出場していた(NPBのウェブサイトには、楽天のユニホームを着て背番号7をつけた小学6年生の西巻の写真が掲載されている)。東北の福島県で育ち、球団との縁もあるフランチャイズプレーヤー候補の登場を喜ぶファンも多いことだろう。

 西巻のような存在が飛び出してきた背景には、球団創設期から東北の野球振興を目指し、続けられてきたアカデミー事業の歴史がある。楽天イーグルスジュニアは年に1度のトーナメントへの出場を目的に編成されるものだが、ほかにも“ベースボールスクール”や、中学生で編成される硬式野球チーム“東北楽天リトルシニア”など常設されているものもある。

 スクールは野球を楽しむことを前提としたプログラムを組む一方、リトルシニアは球団の下部組織としての位置づけで高いレベルの技術を磨いている。カバーする年代、技術レベルにバリエーションを設け、たくさんの子供たちと野球の接点をつくりだそうと努めている。

小さなバンで東北各地を行脚、プロの技を“言葉”で伝えていく

 これ以外にもスポットでのイベントも各地で開催。2月には新たな試みとして、駅伝・マラソン大会を楽天生命パーク宮城と隣接する仙台市陸上競技場を会場に実施。仙台市の少年野球チームに所属する小学生1632人が参加した。また野球肘検診の受診を出場の条件とすることで、スポーツ障害予防の啓発の機会にもした。

 3月には、岩手県花巻市が「『復興ありがとうホストタウン』モデルプロジェクト」として実施した野球教室に協力。2009年から13年まで楽天に在籍し、現在は国際スカウトのダレル・ラズナー氏らが講師を務めた。

「アカデミー事業の発展は、やはりコーチたちの努力によるところが大きいと思います」

 こう話すのは株式会社楽天野球団スクール部長で東北楽天リトルシニアの会長も務める渡辺誉志氏。アカデミーのコーチはイーグルスのOBを中心に現在は17名が所属。指導に加えて、試合中継の解説や学校訪問などもまかされ、球団職員に近い立場で様々な職務にあたる。球団も、楽天イーグルスのコーチやスカウトを目指す人材には、そうした経験を積むことを求めており、それがアカデミーのコーチたちのモチベーションに繋がっているという。

「多くのコーチたちは、最初は子供に野球を教える難しさに直面します。そこで、人前で話したり、伝えたりする技術を磨くことの大切さを実感する。でも、元々野球に人生を懸けてきた人たちですから、簡単にあきらめたりはしません。自分たちが学んできた野球をどう教えるか、どう伝えるかを必死に考えてくれる」(渡辺氏)

「そうやってプロの技が“言葉”になって広がっていくことで価値が生まれていくんです。我々のベースボールスクールは様々な場所で行うので、広い東北の各地を小さなバンに乗って回ることもあります。大変な仕事ですが、コーチたちの頑張りに支えられています」(同氏)

 東北の野球文化を豊かにするための“土壌づくり”。その成果が少しずつ表れ始めている。

※『復興ありがとうホストタウン』モデルプロジェクト
 内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局より「復興ありがとうホストタウン」に登録された、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)の自治体が、これまで支援してくれた海外の国・地域に復興した姿を見せつつ、住民との交流を行う事業として実施するもの。

(盆子原浩二 / Koji Bonkobara)

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