【MLB】味方に「何とかしてくれ…」と言われたことも 牧田和久が明かす投球術の秘話

パドレス・牧田和久【写真:西山和明】

打者のタイミングをズラす投球術「社会人の時にケガをして見つけた」

 今オフ、パドレスへ入団した前西武の牧田和久の評価が日に日に高まっている。サブマリン投法はこれまでの投手のイメージを変えたと言えるかもしれない。

 その球種、投球フォームへのこだわりについて、以前、牧田が明かしたことがある。今回は2回に分けてその話を紹介したい。今回は後編。

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 牧田は自分自身、「普通」に投げて打ち取れる球を持っているとは思っていない。自分の長所を最大限に生かし、頭を使って、相手の良さを消すこと。それができれば結果につながることが分かっている。試行錯誤を重ね、その都度、ベストなものを取り入れているのだ。

 まず考えているのはテンポ良く投球動作に入ること。NPB時代2度のスピードアップ賞を受賞。17年は投球間隔が約7.5秒という早さであった。

「投球動作には、とにかくテンポ良く入りたい。だから左足を蹴ってリズムを作っているように見えるかもしれない。意識はしていないけど自然と左足で地面を蹴っているのかもしれない。ブルペンで投球練習するとその後に結構、掘れているんでね。それにテンポが早いと思う。社会人や高校の時は、捕手が完全にサインを出す前に動いていたくらい。ファールを打者が打ってボールをもらって自分はすぐに投げている。でも野手はまだ守備位置に戻っていない。だから野手に『何とかしてくれ……』って言われたりした(苦笑)」

 次に打者が打ちにくくするために、タイミングをズラし自分のスイングをさせないことを重要視。タイミングをズラす方法も球種だけではなく、投球フォームの中で行うことを考えている。

「投球フォームの中での強弱みたいなのを付けることを考えた。社会人の時にケガをして、そういうのを見つけた。『打者はタイミングで振って来るな』と思ったから、そのタイミングをズラす。投球フォームの中だったり、同じストレートでも強弱を付けることでタイミングをズラしたりする。足を上げる速さを変えたりとか……。ワインドアップから投げていた時も、その中でもクイックで投げたりしてみる。そういう微妙な強弱を付けている」

「これは自分の直感でやっている。『クイックで行ったら打ち取れるな……』とか。投げていて感じるので、直感で変化をつける感じ。でもその部分も面白くて、クイックの時は結構うまくいく。でも長く持って投げるとだいたい合わされてしまう。やはりクイックだと打者はすぐにボールが来るので差し込まれてしまう。でも長めに持つと打者が待てるというか……。足を上げている打者でもちょっと待ちながら、タメられてしまう。あまりズレを作ることができない」

試行錯誤でたどり着いた唯一無二の投球フォーム

 そして最も大事にしているのは、いかにボールに力を加えることができるかである。どんなに打者のタイミングをズラしても球に威力がなければ簡単に打ち返されてしまう。それがプロ、そしてメジャーリーグの強打者であればなおさらだ。下半身をしっかり使い、腕を振るという、投手としての基本を忠実に守ってもいる。

「投げる際には、軸足(=身体の右側)でためた重心をしっかり左側(=打者より)に伝えなければならない。軸足に残ったままだと効果的にパワーを使うこともできない。だから効率的に体重移動をしっかりおこないたい。下手投げですが重心移動をしながら沈んでいるという意識はない」

「でも『下から潜って行こう』という意識は持っている。その時も身体が折れ過ぎては意味がない。『身体の右側で支えてバランスを取りつつ重心移動して行く』、という感じ。一度、最初に身体をしっかりと折ってから投げるのを試してみた。でもそれをやると身体の開きが早くなってしまった。身体を折っても良いと思うけど、投げようとする意識があるのでどうしても投げ急いで身体が開いてしまう。だから、徐々に身体を折りながら移動する、という感じ」

「だから『腕を振る』という意識はない。自分の中では簡単に言うと、おもちゃの『でんでん太鼓』のイメージ。軸というか、下半身を動かすことによって上半身が勝手に付いて来る。下(=土台)をしっかり安定させて回転させることで、上はその惰性で動いて投げている。下がしっかり回れば上もより強く回る。打者もそうだと思うけど、最初から上から動くという人はいない。下から動いてから最後に上が動く。それで最後まで指にボールがかかっているものが、自然に離れてリリースするようなイメージ」

先発、クローザーを経験しても変わらない思い

 プロ入り以来、さまざまなポジションを任されてきた。しかしクローザーであろうが、先発であろうが考え方は変わらず至ってシンプル。調子の波を少なくして安定感のある投手になることである。

「『自分の投球スタイルをしっかり確立して捕手の構えたところにしっかり投げる』こと。あとは、『外すべきところはしっかり外す、勝負ならしっかり勝負する』という、メリハリをはっきりさせる。そういうことをを意識している」

「理想は大崩れしない安定した投手。シーズンをやっていく中でメッタ打ちをくらって降板する時もあるとは思う。絶対に調子が落ちる時がある。それをいかに少なくしたり、調子の落ちている期間を短くするか。例えば、イチローさんは世界を代表する素晴らしい打者。でもシーズンを通じて常にずっと調子が良い時ばかりではない。調子が落ちて来る時も必ずある。でも調子が悪いなりに必ず結果を残す。また調子が落ちて来た時にできるだけ早く調子を戻す。それが一流選手。

「好調をどうやってキープするか。良い時を長く、悪い時を短くという安定した投手になりたい。夏場とか、調子が悪くなる時期が必ずある。そこでへばらず、タフでいたい。だから一言で言えば、タフな投手になりたい。粘れる時に粘れるようになりたい。そうじゃないと良い投手とは言えないと思う。フィジカルもメンタルも両方タフで強い投手になりたい」

 持ち味のストレートに加え、究極のスローカーブも披露した。そしてフィジカルとメンタルの強さも併せ持つ。日米を通じて大谷翔平の動向が注目を集めているがこの男も決して負けていない。アナハイムとサンディエゴ。リーグこそ異なるが、18年のMLBは南カリフォルニアから日本の風が吹き荒れる予感がする。

(細野能功 / Yoshinori Hosono)

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