天然記念物「益田家のモチノキ」移植を許可 横浜

 樹齢約250年を誇る県指定天然記念物「益田家のモチノキ」(横浜市戸塚区柏尾町)の保全を巡り、県教育委員会が、木を所有する小田原市の建設会社に対し、近隣の適地への移植を許可したことが分かった。樹勢の衰えから、かねて倒木の危険が指摘され、昨年には県教委に無許可で幹の一部を伐採した業者が県文化財保護条例違反の罪に問われる事態に発展した。結局、県教委が樹勢の回復と倒木回避には、移植が最善策と判断した。すでに準備作業に着手し、4月中には移植を完了させたい考えだ。

 建設会社は、モチノキの立地場所を含む造成地を2015年夏に購入。一時手放したが、伐採騒動後に再取得し、モチノキの管理を担ってきた。ただ、樹勢の衰えは深刻で、同社は「交通量の多い国道1号沿いに立っており、倒木となれば歩行者や車に危険が及びかねない」と懸念。同条例では指定天然記念物に関し、現状変更などを行う場合には県教委の許可が必要と定めており、同社は17年末に移植許可を求める申請書を県教委に提出していた。

 これを受けて県教委はモチノキの状態を樹木医に相談。その結果、造成に伴って木の周囲が石垣とコンクリート壁で仕切られ、生育に必要な土壌が十分でないことから今後、根詰まりを起こす可能性があると診断された。ありのままの状態での保全が最善との立場の県教委も「移植により土中に根を張ることで、現状より樹勢が回復する可能性が高まる」と判断。今年2月に移植許可を建設会社側に伝え、同月末までに近隣住民にも方針を説明した。

 同社や県教委によると、移植先は現在の場所から北東に25メートルほど離れた地点を想定。実現すれば、現状に比べ国道1号から10メートル近く離れる。同社には強風や豪雨のたびに「(折れた枝などに)車が乗り上げた」といった苦情が寄せられたといい、同社社長は「樹勢の回復は見通せないが、少なくとも被害の軽減は図れるのでは」と話す。

 移植の手法は、樹木への悪影響を最小限にする観点から、モチノキを立てたままの状態でワイヤと滑車を取り付けて根元から移動させる「立曳(たてび)き」工法を採用するという。

 「地域のシンボル」が移植に向けて動きだしたことに、住民の思いはさまざまだ。モチノキの近くに住む70代の無職男性は「木が元気になるならとは思うが、昔からの姿が変わると思うと…」と複雑な表情。地元の連合町内会長の男性(70)は「ちゃんと移植されるのか、見守っていきたい」と話した。

 ◆益田家のモチノキ 江戸時代から伝わり、樹齢約250年。国道1号沿いの不動坂交差点近くに立ち、1981年7月に県の天然記念物に指定。かながわ名木100選にも数えられている。高さ18メートルと19メートルの2株からなり、幹回りは約3メートル。2017年2月に、前所有者の建設会社役員の男性ら3人が県教育委員会の許可を得ずに幹の一部を伐採。県文化財保護条例違反容疑で書類送検され、同12月に男性役員が同罪で罰金5万円の略式命令を受けた。

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