【高校野球】3本の矢、ならぬ4本の矢で… 近江が誇る左右4枚の投手陣

近江高校の有馬諒捕手(左)、金城登耶投手【写真:沢井史】

エース・金城、林の左腕コンビに松岡、佐合の右腕コンビ

 球春到来。3月23日から甲子園球場で第90回記念センバツ高校野球大会がスタートする。ドラフト候補が多数在籍する大阪桐蔭高は史上3校目の春連覇に注目が集まり、16年の優勝校・智弁学園高も虎視眈々と上位を狙っている。今回、フルカウントでは高校野球を取材して約20年のベテラン・沢井史記者が、実力校の集まる近畿地区6校を独自の目線で紹介する。第5回は多彩な投手陣を誇る滋賀・近江高校。

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 3年ぶりのセンバツ切符を手にした近江は、エースの金城登耶、2年生の林優樹のダブル左腕を中心にバッテリーの躍動に注目が集まる。2人の他にも昨秋の練習試合で結果を残した松岡裕樹、佐合大輔の右腕コンビもおり、投手陣の調整は順調。年明け早々に4人がブルペンで投げ込んだ際は「このまま春に突入してもいいくらい」と多賀章仁監督が頬を緩めたほど。金城、林ともに体は決して大きくない方だが、安定感は抜群だ。

 金城の持ち味は各2種類あるというカーブ、スライダーと力のあるストレートとのコンビネーションだ。1年秋から背番号1を背負ってきたが、忘れられない試合がある。一昨秋の近畿大会の初戦の神戸国際大付戦。先発の松岡が神戸国際大付の強力打線に捕まり、2番手としてマウンドに登ったものの、相手の勢いを止めることができず3回1/3を投げ、2失点。チームもコールドで敗れたが、自身が痛感したのは技術以前に独特の空気に飲まれた“弱い自分”だった。

 以降、金城はブルペンに立つ際は常に緊張感を持って投げるようにしている。だが、そんな金城を脅かす存在となる左腕が翌春現れる。新2年生の林優樹だ。「林は体が自分と同じくらい小さいけれど、体をしっかり使えているしコントロールがいい。ただ、自分の方が経験はある。常に負けない気持ちで練習してきました」。

 林は右足を大きく上げるダイナミックな投球フォームからキレのあるチェンジアップ、大きく曲がるカーブを小気味よく投げ、マウンド度胸も満点。体の細さは否めないが、1年夏から経験を積み、金城に負けない存在感を示している。ライバル視しつつも、今は共に練習する良き仲間でもあり、チームとして勝ち進んでいくにはやはりかけがえのない存在だ。

「自分がエースとして投げ切りたいとは思いますが、林の力も必要。センバツはもちろん、夏に向けて自分も林に負けないピッチングをしたいです」(金城)。

 そんな投手陣を陰で支える“司令塔”が、新2年生ながら正捕手の有馬諒だ。有馬は1年春の県大会から背番号「20」をつけてベンチ入りし「秋からの新チームも、有馬がキャプテンになると思う。それほどチームの柱のような存在」と多賀監督をはじめ首脳陣からの信頼が厚い。

女房役を務めるのは新2生の有馬「ピッチャーを輝かせるのが自分の役目」

 下級生とは思えない冷静沈着さと、頭脳明快なリードを見せる。「自分とはまったく違うほど落ち着いていて、いつも先のことを考えてくれています。リードはほぼ有馬にほぼ任せています」と同学年の林が一目置く存在でもある。成績も常に上位をキープし、受け答えひとつでも大人と話しているような感覚を覚える。

「心掛けているのは、ピッチャーの特徴を生かしてバッターの裏をかくようなリードをすることです。セオリー通りにやることも大事ですが、それでは抑えられないので…。ピッチャーのその日の調子や体の状態を見て組み立てを考えますが、その日のテンションや気分の浮き沈みもあるので、そこを見ながら間合いやタイムを取りながら、ピッチャーの良さを引き出すようにしています」(有馬)。

 野球を始めた小学校1年の時はピッチャーで、学年が上がっていくにつれチーム事情などもありキャッチャーをする機会が増えた。だからピッチャーの心理も分かる。それでも捕手は決して目立ってはいけないというポリシーも持っている。「自分は脇役。ピッチャーを輝かせるのが自分の役目」。そのために必要なのは信頼関係だと自負している。

 先輩投手だろうが常に言葉を掛け続け、その日の“相棒”の様子を把握する。敬語を使いつつ、言いたいことはズバッと口にするが、それが元で信頼関係が揺らいだことはない。「確かに先輩だと気を遣ってしまいがちにはなりますが、それではキャッチャーは務まらないと思います。先輩は優しい方ばかりなので自分の言葉は受け入れていただいています。捕手の先輩がいる中で自分が背番号2をつけさせてもらっているのはありがたいこと。でもだからと言って遠慮せず、お互いに思うことを言い合ってコミュニケーションを取っていきたいです」。

 17年前の夏の甲子園で準優勝した際も3人の投手がマウンドを分け合い“3本の矢”が話題になった近江だが、今年も複数の投手で上位進出をにらむ。その中心に立つ新2年生の“太い幹”が湖国の名門の浮沈のカギを握ると言っても過言ではない。

(Full-Count編集部)

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