働き方改革を考える 被雇用者以外へも視線を 川口 幹子

 社長は育児休暇が取れない、という衝撃の事実を知ったのは、恥ずかしながらつい最近のことだ。正確に言うと、法人代表者や個人事業主などは雇用保険には加入できないため、雇用保険から支給される育児休業給付金は受け取れない。つまり、育児休暇を取るのは自由だが、その分は単純に「働いていない期間」となり、収入は得られないというわけだ。
 ちなみに、産前産後の休業中に支給される出産手当金も、健康保険に加入している人が対象であるため、国民健康保険加入者である個人事業主は、受け取れないということになる。
 農家や漁師は基本的には個人事業主である。産前産後に低下する生産性を保証してくれる制度はないということだ。乳飲み子を抱えて、はたまた床上げも待たずに通常の農作業に戻れということであろうか。家業で行うことが当たり前だった農業では、育児中は親父が頑張ればよいということで、今まではさほど問題にならなかったのだろう。
 ところで、今、世間をにぎわせている「働き方改革」。急速に進む労働人口の減少をいかに補うかは喫緊の課題であり、安倍政権肝いりの政策だ。働き手を増やし、労働生産性を上げるために、長時間労働の是正や、非正規労働者の処遇改善、女性や高齢者の就労促進などが検討されている。
 日本の制度は、とかく会社員対象となっていることが多く、今回もまた企業向けの対策に留まっているなという感は否めない。
 殊に地方においては、企業に雇用される以外の働き方をしている人の比率が高い。「田園回帰現象」とも言われるように、今、都市部の若者を中心に、地方への移住・定住の動きが活発化している。こうした若者は、憧れだった農園を持ったり、小さなカフェやゲストハウスを開業したり、時には地方のニーズを汲んでこれまでにないビジネスを始めたりしている。
 地方には職がないと思われているが、農林水産業の担い手不足が深刻であることからも分かるように、仕事はあるのだ。こうした仕事を見つけ、または生み出し、地方の活性化の一役を担っているのは、まぎれもなく起業家であり、雇われている人たちではない。
 産休や育休に関しても、被雇用者を前提とした制度だけではなく、それこそ多様な働き方に対応できるような制度設計が必要な時代ではないだろうか。「仕事=企業への就職」と捉えてきたこれまでの政策を見直し、起業や一次産業への参入を志す人であっても安心して働ける社会になってほしいと願う。
 【略歴】かわぐち・もとこ 1979年青森県出身。地域おこし協力隊員として対馬市に移住。対馬グリーン・ブルーツーリズム協会事務局長。農村交流や環境教育に取り組む。北海道大大学院環境科学院博士後期課程修了。

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