ブラーヴォ!イタリア② 人と人をつなげるのは、1杯のグラスワイン

プラネタ社の原点ともいえるメンフィのブドウ畑

 イタリアでは、土着のブドウ品種が数千種類あるとされ、政府が公認するものだけでも400種類以上にのぼります。そして、南北に長いこの国では、地域によって風土が異なり、栽培されるブドウやその味にも多様性がみられ、さまざまなワインが生産されています。

 代表的なワインの産地は北から、「ワインの王」とも呼ばれるバローロなどで知られる〈ピエモンテ州〉、白ではソアーヴェ、赤ではヴァルポリチェッラが有名で、水の都ヴェネツィアのある〈ヴェネト州〉、イタリアワインの“代名詞”キャンティの〈トスカーナ州〉、近年、世界的に評価されるワインを生み出している〈シチリア州〉があります。

 これらのワインは、他のヨーロッパ諸国同様、厳しいワイン法で格付けされています。従来は、4つのランクに分類されていましたが、2010年からの法改正で現在は3段階に。これまでのD.O.C.とD.O.C.G.が「D.O.P.(保護産地呼称ワイン)」、I.G.T.が「I.G.P.(保護地理表示ワイン)」、V.d.T.が「Vino da Tavola(テーブルワイン)」となりましたが、従来通りの4分類で表示することも認められています。

 ただ、それぞれのワインは元々地元の人たちに愛されてきた地酒でもあり、生産者たちは高いプライドを持ってワイン造りに取り組んでいます。

 そこで、先日、来日したプラネタ社(シチリア州)の共同経営者で醸造責任者のアレッシオ・プラネタさんに話を聞きました。

プラネタ社のお勧めワイン「チェラズオーロ・ディ・ヴィットリア」を持つアレッシオ・プラネタさん

 プラネタ社は300年前からブドウ栽培に携わってきた名家の当主 ディエゴ・プラネタさんが1985年に設立。95年から娘のフランチェスカさんと甥のアレッシオさん、サンティさんの3人によって経営されています。

 「ワイン大陸」とも呼ばれるシチリア島の〈メンフィ〉と〈ヴィットリア〉、〈ノート〉、〈エトナ〉、〈カーポ・ミラッツォ〉に5つのワイナリーを持ち、土着品種と国際品種の巧みな使用、各地域 の土壌や気候の特徴を活かしたワイン造りによって、世界から注目を集めています。

ノートのブドウ畑

 アレッシオさんによると、80年代、イタリアではワインビジネスはそれほど盛んでなかったそうです。「ワインは飲んでいたけれど、それは日常的なもので、世界進出など、あまり考えていませんでした」。新しいワイナリーにも関わらす、比較的短期間で成功した理由について、アレッシオさんは「若いころからの(ワイン造り)師匠であるディエゴの存在が大きいですね」と語ります。

 師匠の影響もあり、アレッシオさんは大学でワインの醸造を学び、仏ブルゴーニュで修業。共同経営者でいとこのフランチェスカさんはマーケティングを勉強し、「ワイン業界にマーケティングの考え方を取り入れたパイオニア」といわれています。「彼女のアピールがうまくいきました」とアレッシオさん。

 でも、簡単に成功したわけではなく、世界中を飛び回り、自分たちのワインに対する反応を良く見、意見を注意深く聞き、努力を続けてきたそうです。「旅するうちに、視野も広がってきて、シチリアらしさも大切にしながら、世界への順応性も身に付けることができました。シチリアには長い歴史、さまざまな文化があり、魅力の尽きない島なので、世界の人々に語る素晴らしいストーリーがあったのも大きかったですね」と振り返ります。

 プラネタ社では約5年前、シチリア島北部のワイナリー〈カーポ・ミラッツォ〉で、ローマ時代にユリウス・カエサルが愛飲したとされる赤ワイン「マメルティーノ」を復活させました。

 カエサルの飲んだワインとの味の違いを尋ねたところ、「ブドウの品種も醸造方法も異なるので、全く味わいは異なるでしょう。でも、(カエサルの飲んだワインと)同じ土地でワインを造ることに意味があるのです。私のワイン哲学は“美しい場所でワインを造る”。つまり、素晴らしい自然環境でこそ、本当においしいワインが生まれるのです。ここは三方を海に囲まれ、天国のように美しいですよ」と熱く語ってくれました。

 カエサルは、闘いの前に戦士たちを鼓舞するため、また、エネルギー源としてこのワインを飲ませたそう。アレッシオさんは「今で言えば、レッドブルですかね」と笑います。

 日本人の20~30代の女性にオススメのプラネタ社のワインは、ロゼと赤のチェラズオーロ・ディ・ヴィットリア。「イタリアで春を感じるワインといえば、ロゼ。淡い華やかな色のロゼは近年、世界的ブームを巻き起こしています。私たちのロゼは、イチゴのアロマが特徴で、フレッシュで、エレガントでセクシー」とアレッシオさん。

 合わせる料理は、アランチーノ(ライスコロッケ)や野菜のグリル、野菜の煮込み、サラダなど。でも、とてもアロマティックなので食前酒としても良いとのことです。

 チェラズオーロ・ディ・ヴィットリアは、シチリアで唯一の最高ランクD.O.C.G.の格付けをもつワイン。土着品種のネロ・ダーヴォラ(60%)とフラッパート(40%)で造られています。

 華やかでフルーティー、タンニンもソフトなので、親しみやすい味わいのワインで、グラスに注ぐとまず、イチゴやチェリーのかわいらしい甘い香りがするそう。アレッシオさんは「トマトベースのパスタやピッツァ、野菜との相性がよく、魚料理(特にエビやマグロ)には、ちょっと温度を低めにして合わせるといいですよ」と説明してくれました。

ヴィットリアのワイナリー

 最後に、日本人へ、ワインとの付き合い方について、アドバイスをもらいました。「ワインは人生を豊かにしてくれます。人と人をつなげるのは、スマートフォンではなく、一杯のグラスワインです」。

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