『見栄を張る』 絵にならない「泣き顔」をどう見せるか

(C) Akiyo Fujimura

 10年後の香港を舞台に気鋭の若手監督たちが競作したオムニバス映画『十年』が、昨年日本でも公開されて話題となったが、その日本版の製作が現在、『三度目の殺人』の是枝裕和監督を中心に進められている。本作の監督は、そのメンバーに選ばれた27歳の新人・藤村明世。これは、彼女の長編第1作だ。

 周囲には“女優”だと見栄を張りながらも、ダイコンで全く売れない28歳の主人公が、事故で急死した姉が葬儀で参列者の涙を誘う“泣き屋”の仕事をしていたと知り、女優の自分なら簡単にこなせるだろうとその仕事を引き継ごうとするが…。『おくりびと』を彷彿させる題材は、確かに企画としては面白い。ただし、泣き屋は人前で泣く仕事。そして、泣き顔は最も映画的でないものの一つだ。イーストウッドの例を挙げるまでもなく、まともな映画監督は、泣き顔を(少なくとも真正面からは)撮らない。理由は、絵にならないから。だからこれは、無謀な試みに新人が挑んだ企画なのだ。

 その高いハードルをクリアするために彼女が選んだのが、見る側のハードルを下げておくという戦法だった。泣き顔は絵にならないことを逆手に取った滑稽で醜悪な“嘘泣き”を事前に見せることで、その落差によってクライマックスの“涙”の価値を上げる。果たして成功しているかどうか、映画館で確かめてほしい。★★★☆☆(外山真也)

監督・脚本:藤村明世

出演:久保陽香、岡田篤哉、似鳥美貴

3月24日(土)から全国順次公開

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