金属行人(3月20日付)

 「鉄は国家なり」という言葉は、プロイセン宰相・ビスマルクによる1862年の鉄血演説が由来とされる。戦車や軍艦を大量生産するのに欠かせない鉄鋼業は、軍事力だけでなく経済力も支える産業として各国が育成してきた。ただ、グローバル化が進む昨今、海外資本による製鉄所運営も珍しくない。現代でその言葉は、少しノスタルジーを帯び始めているのではないだろうか▼さて、近日中にも米国で鉄鋼輸入を規制する「通商拡大法232条」が発動する。輸入材が安全保障上の脅威となっているのが理由だという。鉄鋼業は性質上、政治事情に左右されやすい産業でもあり、今回の輸入制限も今年11月の中間選挙をにらんでいるともいう▼関税がかかれば米国内の熱延コイル価格は1千ドルを超えるかもしれない。今も米国の鉄鋼業はフル稼働状態とされ、米国の鋼材価格は史上最高水準にまで上昇する可能性もある▼カナダなど隣国は対象から除外される見通しもあり、アジア圏の需要は依然として旺盛。鉄鋼業そのものへの影響は軽微なのかもしれない。「安全保障を理由とした鉄鋼の輸入制限」。ノスタルジックな響きも感じるが、報復関税や保護貿易の拡大など歴史の轍を踏まないよう願いたい。

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