【高校野球】全国の進学校への指標に 甲子園夏春出場を決めた公立高校の挑戦

彦根東は昨夏から夏春連続で甲子園出場

昨夏の甲子園出場、昨秋近畿大会8強入りした彦根東

 球春到来。3月23日から甲子園球場で第90回記念センバツ高校野球大会がスタートする。ドラフト候補が多数在籍する大阪桐蔭高は史上3校目の春連覇に注目が集まり、16年の優勝校・智弁学園高も虎視眈々と上位を狙っている。今回、Full-Countでは高校野球を取材して約20年のベテラン・沢井史記者が、実力校の集まる近畿地区6校を独自の目線で紹介する。第6回は文武両道で夏春連続出場の彦根東。 

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 春夏連続の甲子園出場よりも、夏春連続の甲子園出場の方が難しいとされている高校野球。彦根東は、この春その難しい夏春連続出場をチームとして初めて果たしたのだ。 

 ただ、その道のりは決して平坦ではなかった。昨夏の甲子園の2回戦で敗れた後、新チームが走り出すも、主力選手がほとんど抜け、まずはチームの骨格作りに時間がかかった。 

「去年のチームは前チームからの経験者が多かったし、すぐに各ポジションを任せられる選手がほとんどでした。でも、今年はレギュラーで残ったのは(エースの)増居(翔太)とセカンドの朝日(晴人)だけだったし、2年生でAチームにいたのも5人くらいしかいなかったんです。レギュラー云々というより、まず“誰がどこを守れるのか”と選手の特性を見極めることから始まりました」(村中隆之監督) 

 部員が2学年で47人と決して少なくはない。だが、県内屈指の進学校。野球の実力が長けた者ばかりが集まっている訳ではなく、試合に出るにしても力量を見極めなくてはいけない。そのため、彦根東では1人2ポジション以上を練習することを念頭に置いている。主に投手として試合に出ていても、中学時代に内野の経験があればノックも受ける。昨年のチームは元捕手の選手が一塁や投手を務めていた。

専用グラウンドなし、7限授業にテスト前は練習時間が制限

 秋の県大会までの限られた時間の中で選手の動きを見ていくのだが、昨秋は台風や大雨の影響で公式戦が延期することも多かった。だが、時間のなかった彦根東にとっては恵みの雨となり、県3位として近畿大会に出場し、ベスト8まで進出した。 

 進学校が野球も両立する。いわゆる“文武両道”という言葉は、学生スポーツにおいてよく聞かれる言葉だが、昨夏はその文武両道について様々な意見が飛び交ったこともあった。そもそも、高校生が運動部で打ち込むこと自体が“文武両道”ではないのか。確かにそうではあるが、環境面などを踏まえると状況は少し変わってくる。 

 特に彦根東は専用グラウンドがなく、7限の授業がある日もあり、テスト前は練習時間が制限される。今年の3学期は、まず模試からスタートと定期テスト以外にもテストが多く、机に向かう時間も毎日確保しなくてはならない。つまりは野球と勉強は同じような姿勢で努めなくてはならないのだ。 

「それを“文武同道”と、私は呼んでいます。野球も勉強も、やることは同じ。そして限られな環境の中で、どれだけ効率よくやれるかだと思うんです。特にウチのような公立校は可能性のあることはどんどんやって準備をしておかないと戦っていけない。でも、それがうまくいった時ほど嬉しいことはないですね」(村中監督) 

 2009年に21世紀枠として56年ぶりにセンバツ出場してから、はや9年。昨夏の甲子園に続き今春のセンバツと、力で示して掴んだ甲子園切符は、全国の進学校への指標にもなる。“文武同道”で培った野球が今春のセンバツでどんな花を咲かせるのか――。期待が膨らむ。 

(Full-Count編集部)

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