転機に立つ医療・1 病床削減 「住民のため」の再編必要

 団塊世代が75歳以上になる2025年を前に、長崎県の医療が転機に立っている。県は国の制度に基づき、25年に実現すべき医療提供体制を示した「地域医療構想」を16年に策定。医療再編に向けた協議は18年度に本格化する。超高齢社会に対応すると同時に、社会保障を維持するため医療費抑制を図る国の狙いが背景にある。離島や過疎地域が多く、人口減と高齢化のスピードが他を上回る長崎県の医療はどうなるのか。
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 「CPAです。高齢の女性だそうです」
 職員が耳打ちしてくれた。先月、長崎市新地町の長崎みなとメディカルセンター1階の救急科。CPAは心肺停止状態を指す。医療用エプロンや手袋を着け、器具をそろえる医師、看護師ら。慌ただしさが増した。約30分後、到着した救急車から患者を乗せたストレッチャーが運び込まれた。医師が両手で患者の胸元を何度も押し、心肺蘇生を施す。人と医療機器が取り囲み、処置は長い間続いた。
 同センターは旧長崎市立市民病院を現地で建て替え、14年2月に救急科を含む1期棟が開院。16年7月に全面開院した。救急医療に力を入れ、16年度は救急車4千台以上を受け入れた。本年度もこれを上回るペースで推移している。
 同市消防局管内の17年の救急搬送人員は約2万3千人で、65%の約1万5千人を高齢者が占める。出動件数は10年連続で増加。原口正史副院長は「高齢化で救急対応のニーズが増し、役割は大きくなっている」と話す。
 軌道に乗り始めた新病院。だが、14年制定の医療介護総合確保推進法で導入された地域医療構想により、近い将来、病床減や機能転換などの見直しが必要になる恐れがある。
 県地域医療構想は、県内8区域で25年以降に必要な病床数を推計。県全体で16年の約2万1千床に対し、25年は約1万7千床が適正とした。同市を含む長崎区域では、救急患者ら向けの「急性期」病床が16年の計約3800から3分の2程度に減る見通し。
 国は都道府県に対し、18年度中に地域医療構想の実現プランを固めるよう求める一方、構想実現に向け公的医療機関へ命令・指示したり民間に要請・勧告したりできる権限を与えた。国は医療の効率化の方向性を固めた上で、実現に取り組む責任は地域に負わせた格好だ。
 同センターの一般病床494の内訳は現在、高度急性期54、急性期440。現時点で25年まで現状維持の計画だが、公立病院は構想実現への積極的な関与を求められる立場。運営する長崎市立病院機構の兼松隆之理事長は「ベッド削減ありきではなく、住民が困らないためどうすべきか考えなければならない」と語る。
◎メモ
 地域医療構想 2025年以降の地域医療体制の将来像や必要な機能別の病床数を示した都道府県の構想。16年度までに全都道府県が策定。長崎県など41道府県は病床が過剰とされ、全国で13年の134万床余りから25年までに約15万6000床減の見通し。国は高度医療に偏った病床の再編や在宅医療の推進で、実現を目指している。都道府県は本年度策定した新医療計画(18~23年度)に構想を組み込み、推進する仕組み。

救急患者に心肺蘇生を施す医師ら=長崎市、長崎みなとメディカルセンター

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