【世界最高水準の透磁率・新軟磁性材2種を開発】〈大同特殊鋼技術開発研究所・齊藤章彦主席部員(工学博士)に聞く〉製造業で進むAI化ニーズに対応 大電流センサの感度向上

 大同特殊鋼(社長・石黒武氏)は、EVやHVの走行距離増加や、使用者の安全向上につながる新たな軟磁性材2種を開発した。主要な開発ポイントは「センサの高感度化への対応」。産業分野全般での電子材料の使用拡大や自動車の電動化が進み、鉄鋼と電磁気の関係もさらに緊密化している。世界最高レベルの透磁率を持つ素材特性は、電流量の計測能力を大幅に向上させ、部品の小型化にもつながる。電気・磁気を考慮に入れた研究テーマは今後増えそうだ。今回の開発に至る経緯や今後の展望などを、齊藤章彦技術開発研究所主席部員(工学博士)に聞いた。

――今回、新たな軟磁性材(パーマロイ。外部の磁界を取り除くと急速に磁気がなくなり、元の状態に戻る材料)2種を同時に開発、商品化しました。

大同特殊鋼技術開発研究所・齊藤主席部員

 「2種(MENPC2―SおよびMENPB―S)は微妙に用途が違うが、自動車の電動化や自動運転という技術開発が進む中で、特に大電流を正確に計測するセンサの高感度化というニーズに対応した製品という点では共通性がある」

――EVの走行距離増加につながるというが。

 「MENPB―S(透磁率は14万)が適している。EVなどのバッテリー(2次電池)用の大電流センサなどとして活用することにより、バッテリー残量の計測が今まで以上に正確になり、使用できる電池の容量範囲が広がる。電池の実力を使い尽くせるということ。この結果、EVの実走行距離の増加につながる」

 「この材料は、磁束密度(材料の単位面積当たりの磁束数)は1・5T(テスラ)となり、例えば、大電流となるEVの駆動系モータのセンサ感度を大幅に高くできる」

――もう1種のMENPC2ーSはどのような用途に。

 「電流検出の不具合などを検出するセンサ向けに活用が期待できる。透磁率とは、材料の磁化のしやすさを示したもの。これが高いほど電流センサの高感度化が実現する。MENPC2―Sは、透磁率を30万(世界最高水準)に高めた。一般的にセンサに使われる電磁鋼板(透磁率5千)に比べて格段に高い」

――具体的にどのような用途が考えられるか。

 「例えば、EVやPHVなどでは家庭用電源から充電するケーブルが必要だが、それには電流の不具合を検出する装置が必要。そのような用途に普及させたい」

――どのようにして透磁率を世界最高水準まで高めたのか。また、いつごろから研究開発に取り組んできたか。

 「ニッケル、その他の微量添加元素の成分バランスと製造プロセスを最適化した。MENPB―Sは、従来の当社同タイプ製品に比べ、透磁率は75%向上した。また、MENPC2―Sは同比で20%透磁率が向上している。およそ3年前から研究開発を開始した。成分・プロセスなどを見直し、量産が可能になった」

――電磁鋼板などによるセンサ部品と比べ、どのような長所があるか。

 「電磁鋼板の場合は、積層して使用する必要があるが、今回開発した軟磁性材では積層せずに使用できる。センサの小型化につながる」

――生産拠点、形状などは。

 「知多工場に専用ラインがある。製造可能形状は帯鋼で、可能寸法は板厚0・1~1・5ミリ、板幅は10~350ミリ。すでに、HV車種での採用が決まっている」

――今後の売り上げ見通しなどは。

 「5年後をめどに年間10億円以上の売上げを目指す」

――そのための用途開発、課題などは。

 「今後の開発の課題は、さらに透磁率の高い材料を開発していくこと。自動運転システムなどは、今後急速に実用化に向けた技術革新が進もう。こうした流れに対応し、より微弱な電流の計測が正確に行えるセンサ向けの材料としての活用にも期待している」

 「また、家庭用の電力メータなども、ますます計測精度の向上が求められており、こうしたニーズにもしっかり応えていきたい」(片岡 徹)

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