【アルミ合金船舶に特化、瀬戸内クラフトの現況と展望】〈川口洋社長に聞く〉生産性改善で需要捕捉 〝拡大〟よりも〝質〟を向上

 軽量で耐食性に優れるアルミ合金は輸送機分野での成長が著しい。昨今は自動車や鉄道車両といった分野がクローズアップされているが、船舶マーケットも堅調さが際立っている。アルミ合金船舶に特化して市場での存在感を高めてきた瀬戸内クラフトの川口洋社長に、アルミ合金船舶の需要動向や市場の先行き、同社の戦略を聞いた。(遊佐 鉄平)

――御社の企業概要を。

 「1944年設立の艤装品を手掛ける山陽機械工業が、68年にアルミボートの生産に乗り出したのがわれわれの原点。その後、山陽機械工業が瀬戸内工業に組織変更され、その後の船舶事業の分社化によって瀬戸内クラフトは誕生した。さらに89~2003年まではスカイアルミニウム傘下で事業を拡張。古河スカイの誕生を機に船舶部門を統括していた私が全株式を買い取り、今の運営体制になった」

瀬戸内クラフト・川口社長

 「当社はアルミ船舶に特化しており、年間生産隻数は大きさにもよるが大体4~6隻。50~百数十トン級の船舶を得意としているが、400トン超級まで実績がある。向け先としては官公庁の取締船や税関艇、民間の客船向けなどが多い一方で、漁船や保安庁の高速艇などは利用する艤装などの違いから積極的に営業はしていない。税関艇では国内シェア7割を占めている」

――アルミ合金船舶の市場規模は。

 「正確な統計データがあるわけではないが、突発的な大型船の入札を除けば大体100億~200億円程度だろう」

――アルミ船舶の需要動向は。

 「アルミ船舶需要は、これからさらに大きく成長するような環境にはない。この数十年で、FRPや鉄からアルミへの素材の切り替えがかなり進んだ。また新規案件では、官公庁が新造船舶の隻数を減らす傾向にある」

 「それでも20年周期といわれる船舶の更新需要は、今後も毎年見込まれる。また客船ではまだ鉄製船舶も一部であり、これがアルミに切り替わる動きが一定量ある。これらを総合すれば、大きく増えないが逆に減ることもないのではないか」

――大きく増えない市場でどのように企業価値を高めるか。

 「拡大経営ではなく仕事の中身をいかに改善し、〝製品の品質を高めていくか〟ということに尽きる。そのためにも生産性向上に必要な投資は継続していく。この数年間では、老朽化していた組立て用建屋の建て替えや、自動マーキング装置付き切断機の導入がそれにあたる。さらに年末までにもう一棟、組み立てなどを担う建屋の建設を決めた。工場の手狭感を解消し、段取り替えなどの時間を縮小するなどして効率的な生産を実現したい」

――今後の課題は。

 「当社の強みである基本設計から製造までの一貫生産体制は、今後もさらに磨き上げていく必要がある。これまでに作り上げてきた調達・協力会社のネットワークや、育て上げてきた熟練工によって競争力はかなりついていると自負している。今後はこれから始まる世代交代でいかに既存のノウハウ・技術を引き継いでいけるかであろう。私自身73歳。次の経営者の育成は喫緊の課題だ」

 「昨今は船舶業界では昔はスピード重視でエアコンや防音という機能は二の次だったが、最近はエンジン性能の向上などもあり乗り心地に対する要望が強い。こうしたニーズに合った製品をいかに提供していくかも重要。それ以外ではわれわれは単胴船では多くの実績を上げることができたが、双胴船はまだ実績が少ない。双胴船は私が退任するまでに何とか形にしたい」

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