スパイ容疑で北朝鮮に逮捕された男性、変わり果てた姿で家族のもとへ

北朝鮮当局にスパイ容疑で逮捕され、教化所(刑務所)に収監されていた北朝鮮在住の華僑男性が獄死した。家族は、当局から一方的に遺体を返され、「病気で死んだ」と伝えられただけで、死亡の経緯などは何も知らされずにいる。

一般的に、主に自国民に向いていると考えられている北朝鮮の人権侵害は、実は外国人である華僑にとっても深刻な脅威となっている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、死亡したのは中朝国境に程近い平安北道(ピョンアンブクト)塩州(ヨムジュ)に住んでいた華僑男性だ。1990年代から北朝鮮と中国を行き来して商売をしていたが、北朝鮮の国内情報が外信に報道されることが増えたことを問題視していた当局は、華僑が情報を漏らしているものと見て追及を始めた。男性は逃亡した模様だが、ついに逮捕、収監された。

当局は2015年12月ごろ、100人以上の華僑を逮捕したが、男性はこの中のひとりだった。中国大使館は強く抗議したが、結局はその多くが教化所に収監されてしまった。

男性が送られたのは、黄海北道(ファンヘブクト)沙里院(サリウォン)にある6号教化所だ。2011年の時点で3000人から4000人が収監され、農作業や靴、衣服などの製造にあたらされているが、多くの幹部や外国人がいることで知られている。

平壌の出版社で勤務していたベネズエラの著名な詩人、アリ・ラメダさんとフランス人の同僚ジャック・セディヨ氏は、体制批判を行った容疑で逮捕され、この教化所に1967年から1975年まで収監されていた。ラメダさんの証言で、北朝鮮の教化所における人権侵害の実態が全世界に知られるようになった。

教化所をはじめとする北朝鮮の拘禁施設では、劣悪な栄養、衛生状況に加え、暴行、暴言、拷問、性暴力、強制妊娠中絶、恣意的な処刑など、ありとあらゆる形態の人権侵害が行われている。

男性の家族は、刑期がいつ終わるかすら知らされないままだったが、悲しい再会となってしまった。当局は「病気で死んだ」と一方的に告げただけで、本当の死因は分かっていない。しかし、家族は抗議すらできないのだ。

「男性の妻は北朝鮮国籍の一般市民。外国人である華僑だったら当局に抗議できたかもしれないが、一般人にはできないことだ。事件のことを他人に喋れば危害が加えられかねないので、家族は黙っている」(情報筋)

このような状況に耐えかねて、中国に移住する華僑が増えている。かつては数万人いた北朝鮮在住の華僑だが、丹東市政府関係者によると昨年夏の時点で5400人まで減っている。「対中貿易の3分の1を担う華僑」(英フィナンシャル・タイムズ)を追い出してしまうことも、人権侵害を放置することも、北朝鮮にとって決してメリットにはならない。

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