「自治体、市民団体、省庁と連携」ヘイト根絶へ上川法相

【時代の正体取材班=石橋 学】上川陽子法相は23日、ヘイトスピーチの根絶に向けて「地道に活動を積み上げていくことが必要。地方公共団体や市民団体、関係省庁と連携し、粘り強く実践していきたい」との考えを示した。参院法務委員会で、各省庁の取り組みがヘイトスピーチ解消法後も不十分で徹底されていないと指摘した立憲民主党の有田芳生議員の質問に答えた。  有田氏が象徴的な事例として苦言を呈したのは、人種差別団体によるヘイトデモに対する警察官の警備態勢。国連の人種差別撤廃委員会から「警察が人種差別主義者を守っているようだ」と批判されているにもかかわらず、差別に抗議する市民を排除する場面が繰り返されており、「ヘイトスピーチの解消とは逆行している。国民への啓発だけでなく、警察官や教育現場の理解を広げることが人権侵害をなくしていく道につながる。法務省が率先して各省庁の連携を強めていくべきだ」とただした。

 これに対し、上川氏は「まさにヘイトスピーチ解消法が各機関の連携を促す大きな役割を果たす」と述べた上で、国と自治体、市民が一体となった取り組みを推進することを確認した。

 2016年施行の解消法は在日外国人に対して危害を告知したり、侮蔑したり、排除を扇動したりする差別的言動が当事者に多大な苦痛を強い、地域社会に深刻な分断をもたらすとして「許されない」と明記。国や地方公共団体に根絶のための施策を求め、国民も差別的言動のない社会づくりに努めなければならないとしている。

 有田氏が「実効性などの課題はあるものの、解消法が獲得しつつある大きな前進」と評したのが自治体による規制の動き。川崎市と京都府では解消法を法的根拠に、公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインが策定され、やはり川崎市を筆頭に東京都や愛知、福岡両県、名古屋、神戸両市などで条例制定に向けた動きが広がっている。自治体の条例づくりについて有田氏が評価をただしたところ、同省の名執雅子人権擁護局長は「ヘイトスピーチが許されないものであることが社会の中で認識されつつあり、大きな前進。(条例制定の動きも)解消法の施行を契機にしたものと認識している」との見解を示した。

 有田氏は、在日コリアン集住地区のほか、東京の銀座や新宿、浅草、大阪、京都など、多くの外国人観光客の面前でヘイトデモや差別街宣が繰り返されている現状への憂慮を重ねて表明。さらに多くの外国人が訪れる東京五輪・パラリンピックに向け、同省が16年度予算で盛り込んだ5カ年計画「人権大国日本の構築」を示し、「このスローガンはあらゆる場面で強調することが必要。特にネット上の人権侵犯事件はこの10年で6・8倍に増えている。国連から勧告されているように、ヘイトスピーチ解消法の次に必要なのは人種差別禁止法だ。そこに至る過程の中で、ネット上の人権侵害の実態調査を検討するべきだ」と求めた。

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