日本代表のマリとの国際親善試合について、ブラジルでコーチとして活躍されている平安山良太さんに解説していただきます。
W杯イヤーとなる2018年の3月23日(金)。
我らが日本代表はアフリカのマリと国際親善試合を行い、1-1の引き分けとなりました。
W杯での仮想セネガルとして臨んだ試合。
ブラジルでサッカー指導者をしている筆者・平安山(へんざん)の視点からいくつか解説したいと思います。
サードディフェンスの欠落
まずはディフェンス面から見ていきましょう。
マリの守備システムは状況次第で2トップ気味になったりしますが基本4-1-4-1。
ハーフウェイラインの5mほど前からプレスをかけ、ミドルサードでボールを奪って素早いカウンターというのがチームとしての狙いだったのだと予想されます。
ただミドルサードまで引いて守る以外にも、日本のDFがビルドアップにもたつくなどチャンスがあればスピードを活かしてドンドン前にもボールを奪いにくる事も狙っていました。
実際に足の速さや長さが日本人やアジア人と違い、日本代表は少し戸惑う場面も見られました。
アジア人相手なら足が届かないはずの場所にボールをコントロールしても、アフリカ人が相手だと届いてしまう。
これは初見ではかなり苦労しますし、そういう意味では仮想セネガルとしての練習試合の意味があったのではないでしょうか。
W杯本番で事故が起きると取り返しがつきません。
また、日本の守備の狙いはどうだったでしょうか?
日本代表の基本守備システムは4-4-2。
日本のFWも相手のディフェンスラインにも牽制はかけながら、ただ本当の狙い所は相手の中盤より前の選手がパスを受ける時のトラップ際でデュエルする事だったのかなと思います。
マリは2CBがワイドに開いてビルドアップをする特徴があり、またCBと中盤も距離が遠くなりがちでした。
そこでマリのCBからパスを出しても、日本代表選手がパスの受け手に詰め寄る時間が生まれ、狙い通りトラップ際でのデュエルに持ち込む事は成功していたのかなと思います。
ただ誤算だったのはマリの選手とのデュエルに分が悪かった事でしょうか。
日本代表選手のデュエルも現状の日本の実力的には決して悪くはなかったのでしょうし、アジア予選なら通用する強度はありました。
しかしアフリカ勢相手だとあの強度のデュエルでは通用しない。
何度か体を入れ替わられてピンチを招きました。
ただしこれもW杯の練習と考えた場合には良い経験ではないでしょうか。
日本の守備はトラップ際を狙った1対1のデュエルで分が悪かった事の他に、そこで奪えなかった時の3番目の守備もスライドし切れていなかったりと少し連動性を欠いていました。
そこは選手テストの側面も大きいこの試合ではそこまで守備を整備しなかった・出来なかったのかも知れませんし、もしかするとセネガルに情報を与えないための情報戦の布石だったのかも知れません。
ただ逆にマリもボールを受けにサポートに入るなどの連動性は乏しく、お互い様の形でした。
ディフェンスと中盤の分断
前項でマリはビルドアップ時に2CBと中盤が距離が遠くなりがちと書きました。
それは守備の時にも見られ、ディフェンスと中盤での連動性がマリの弱点かなと思われます。
マリのプレスはハーフウェイラインの少し前あたりからスタートするのに対して、ディフェンスラインは少し高めでした。
そのためにディフェンスラインの裏にはスペースが広がる傾向があり、日本も序盤はボランチを経由したりサイドチェンジを多用していましたが、状況を見て何度かロングボールで裏を狙ってチャンスも作りました。
ただ後半あたりからマリもまたそれに対応してきて、日本が裏へのロングパスをしようとするとマリのディフェンスラインの選手はしっかりラインを下げ、マリのGKも日本のロングパスを待ってましたとばかりにケアしていました。
その辺の戦術対応は面白かったですね。
ただしマリとしては高いディフェンスラインは自分達で設定している事で、その裏を狙われる事は想定していたのでしょう、ディフェンスやGKはロングパスに対して策があるものの、中盤はセカンドボールを拾いに行く事がおざなりになっていました。
日本としてはロングパスを収めたりヘディングに完全には勝ち切れなくとも、相手の邪魔さえ出来ればセカンドボールを拾って攻撃権を再度獲得する循環を作れました。
マリの選手はボールウォッチャーになりがちな選手が多かったですね。
前半に宇佐美選手から久保選手にパスを出してチャンスがあった様に、斜めの動きがあると更にチャンスは増えたかも知れません。
中島選手の活躍
戦術的に狙っていたのか、テストのために出しただけなのかは分かりませんが、日本は小林悠選手を出してディフェンスラインの裏を、本田圭佑選手を出してディフェンスラインの前を攻略出来るメンバーチェンジをしました。
もともと組織力には少し課題のあったマリ代表ですし、終盤には疲労もあってか、小林選手と本田選手が同時に出場するとなかなかチームとしてのボールの奪い所を定められなくなってきていました。
マリの守備の乱れもあり、欧州でしっかり活躍してこの試合に呼ばれた中島選手は体もキレていて、一瞬のスピードとテクニックを存分に活かす事が出来ました。
当然1試合だけの良し悪し、これだけでW杯当確という事でもなく、まだまだメンバー入り・レギュラー争いは続くでしょう。
終盤になるとマリの攻撃は速攻とテクニックのある選手の個人技がメインでしたが、前半に先制している事もあってそれほどリスクは犯さずにきました。
日本代表の大迫選手は体の強さも特徴ですが、彼の場合はボールを受ける前にも走り込もうとする進路を変えるフェイントを入れたり、駆け引きが非常に上手い選手で、日本の子供達には是非ボールのない所での彼のプレーにも注目して欲しいです。
それに比べるとマリのFWはこの試合ではそういった駆け引きは少なかった印象です。
ハリルの狙いは?
この試合は最後の最後でやっと追いついて引き分けました。
仮想セネガルとは言え、マリはW杯出場を逃した国とあって、セネガルより実力が下と見られる相手とのこの結果には煮え切らない方も多いのではないでしょうか?
ただ、現場で指導者をしている筆者からすると、もし筆者がセネガルの監督だった場合に、日本が仮想我々として闘っている試合は当然ですが穴が空くほど分析します。
もしもW杯本番でも同じ戦術をとってきてくれるなら手の内を教えてくれた様なもので、非常に対策が立て易いですね。
これは何も筆者だからとか、ハリル監督だからではなく、プロサッカーの現場では、相手が仮想我々として闘っている、もしくは仮想我々となりうる特徴が似ているチームとの対戦ではどの様な戦術をとってきたのか?というのを分析するのはよくある事だからです。
これはクラブのリーグ戦、1週間程度の準備期間しかない場合でもよくある事なのですから、W杯まで3ヶ月もある現時点で戦術や思考を読ませてしまえばかなりのデータを相手に与える事になるでしょう。
勿論これは特に珍しい事ではない、という話であって、当然監督によって分析の重視する項目は違いますし、セネガルの監督やハリル監督がどうなのかは、知人でもない筆者には申し訳ないながら分かりません。
そういう意味で、ハリル監督がこの試合に狙っていた事は何なのか?
それはたとえインタビューしても答えてくれるか分かりませんし、本当のところは日本代表内でしか共有されません。
本番同様の戦術をとろうとして上手くいかなかったのか、選手のテストが目的だったのか、足の速さや長さなどアフリカ人選手の身体的特徴に慣れる事だったのか、情報戦だったのか。
それはハリル監督のみぞ知る所。
ハリル監督のアルジェリア監督時代は情報戦のところはどうだったのでしょうか。
本業のサッカー指導者として自分のチームを見なければならないので僕自身で日本代表分析に使える時間に制限があるのは誠に申し訳ないながら・・・
専門のライターや解説者などで詳しい方がいましたら何処かで記事にして頂けたら是非読みたいですね。
さて、次戦・3月27日のウクライナ戦も要注目ですね!
しっかりと応援しましょう。
ガンバレ、ニッポン!