自動でスリッパ整理整頓 日産が箱根の老舗旅館で体験会

 スイッチ一つでスリッパや座布団などが自動で整理整頓される−。日産自動車(横浜市西区)が自動運転技術を応用した試みで、そんな未来の旅館の姿を提供している。25日には箱根町塔之沢の老舗旅館「一の湯本館」で体験会があり、宿泊者からは驚きの声が上がった。実用化には課題もあるが、旅館業の慢性的な人手不足解消の一助にと同館は期待を寄せている。

 壁のスイッチを押すと、玄関先で散らばっていた4足のスリッパがゆるゆると動き始めた。車のような切り返しを見せ、かかと部分からバックし客を迎えるように整列。客室でも座布団やリモコン、テーブルが周りの物にぶつかることなく指定された位置に1分もかからず、収まった。

 同社などによると、昨年10月に発売した電気自動車「新型リーフ」に搭載された自動駐車機能を生かしている。一つ一つに赤外線を放つLEDが取り付けられて自走機能があり、天井設置のカメラが赤外線を感知、最適ルートを判断する仕組みだ。

 体験会には、希望があった4千件の中から選ばれた愛知県一宮市の女性(45)一家が参加。夫や2人の息子とともに興味津々の様子で、「老舗旅館に先進技術があって不思議」「散らかしてもすぐ片付き、便利」と笑顔で話した。

 あくまでも狙いは、車に興味がない人や外国人らにこうした技術を知ってもらうこと。量産化が難しく、同社は実用化について「検討中」としている。

 とはいえ、県西部の旅館業は人手不足に起因するとみられる長時間労働が課題となっており、同館でもゴールデンウイークや年末年始など繁忙期は人手が足りなくなるだけに、同館の視線は熱い。

 スリッパなどが自動で整理可能になれば、「省力化につながりサービスの質の向上につながる」と同館の担当者。「今後の展開に期待したい」と楽しみにしていた。

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