【現地ルポ】〈設備増強進むUACJタイランド(上)〉安定生産体制の構築急ぐ 備自動化で競争力引上げ

 UACJがタイのアルミ板圧延工場「UACJタイランド(UATH)・ラヨン製造所」を立ち上げてから約4年。東南アジアをはじめオセアニアや中東市場などに向けて、缶材や自動車熱交換器材を供給している。日本、米国と並び成長戦略の中核として位置付けられるUATHを訪れ、操業当時からの変化や足元の状況を取材した。(タイ・ラヨン発=遊佐鉄平)

 首都バンコクから車で南東へ約2時間半。高速道路を降り、幹線道路沿いに工業団地の看板が目立ち始めると、アマタシティ工業団地が姿を現す。工業団地入口からさらに10分弱進むとラヨン製造所が見えてくる。名古屋製造所とほぼ同じ約50万平方メートルという敷地面積は、東南アジア最大規模のアルミ板工場。工場建屋は福井製造所を改良したレイアウトとなっており、需要の伸びに合わせて敷地の西側に工場を拡張できる設計だ。

 UATHは、旧古河スカイがアルミ板一貫工場をタイに建設すると決めた当初から段階的な能力の拡大を計画していた。第1段階の〝フェーズ1〟は、(1)冷間圧延工程(3基)(2)熱処理ライン・表面処理ラインなど仕上げ工程を先行的に動かすもので2014年1月に稼働を開始。熱延母材を日本から供給し、年6万トンの生産能力を持って製缶メーカーや自動車熱交換器メーカーへの材料の認定作業に着手した。

 その後、15年8月からは〝フェーズ2〟に移行。冷間圧延の前工程である鋳造工程や熱間圧延工程を稼働させることで、アルミ圧延工場としての一貫体制を整えた。これによって年産能力が3倍の18万トンに拡大。本格的に缶材と自動車熱交材の販売をスタートさせた。

 〝フェーズ2〟体制となり2年強。東南アジアはもちろん、オセアニアやインド・中東、最近では米国や韓国へも缶材を輸出するなど販売エリアは拡大し、取引先も80社を超えた。17年の販売数量は12万トンまで増えてきたが、それでも「一部の缶材ユーザーからの承認が遅れたため、計画した数値に達しなかった」(土屋博範UATH社長)として、営業・製造の両面で競争力強化に向けた課題の洗い出しを進めている。

 現場の取り組みとしては生産性を改善するために〝設備能力向上プロジェクトチーム〟を立ち上げた。熱間圧延以外の部門を対象としたもので、冷間圧延機では圧延スピードの高速化や、パス時間、段取り替え時間の短縮などに取り組んでいる。このほか「歩留まり向上も一段と加速させたい」(同)考えだ。

 また、人材育成と設備の自動化もテーマだ。従業員数は18年2月時点で975人。そのうち現場の日本人スタッフは約85人で、大半のオペレーターはナショナルスタッフだ。土屋社長は「立ち上げ初期と比較すれば日本人スタッフは減少したが、それでもまだ多い。経験が浅いスタッフでも安定した稼働ができるような〝人の能力によらない〟ものづくりが必要。日本の製造所と比較するとかなり自動化を進めているが、さらに推進していかねばならない」とし、ソフトウェアの改善などもさらに促進。日本人を減らしても品質を維持し、コストを下げていく考えだ。

 缶材、自動車熱交換器材に続くUATHの第3の柱を作り上げる取り組みも現在進行中。〝フェーズ2・5〟と呼ばれるエアコン熱交換器用フィン材の塗装・仕上げラインの新設だ。旧古河スカイが計画した当初の予定になかったものだが、タイに日系エアコンユーザーが多く立地していることと、統合した旧住友軽金属がエアコン熱交換器材の製造に長けていたことから13年のUACJ誕生後に設備導入が決まった。

 ラヨン製造所の仕上げラインが並ぶ建屋の東側を増築し、そこに専用の塗装処理ラインを導入した。1700ミリ幅のコイルを塗装後にスリッターで半割りすることで生産効率を高める名古屋製造所流の製造ノウハウが移植されている。これらの設備はすでに設置を終えており、サンプル出荷を経て5月ごろから量産出荷を始める計画だ。

 UATHは〝フェーズ2・5〟体制となって1年目の18年、販売量を3割増の15万トンまで引き上げる方針を示している。「缶材など需要は十分にある。ラヨン製造所が安定生産を確立できるかどうかが大きな課題」(同)とし設備能力の向上、不具合の改善を徹底的に進め、競争力の強化を図っていく考えだ。

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