自らの戦争体験を通して、社会や人間を鋭く見つめ表現する版画家、浜田知明。昨年末、100歳を迎えた大家の画業をたどる展覧会が東京の町田市立国際版画美術館で開かれている。
浜田の銅版画は深刻なテーマにもかかわらずどこかユーモアがある。例えば銅版画「初年兵哀歌(銃架のかげ)」。家具も何もない寒々とした部屋の隅には銃が立てられている。銃の影がかかる床に横たわるのは、のっぺりとした有機的な形の生き物。芋虫が巨大化したような姿だが、動けないようにピンで留められているものもいる。口を思わせるものはない。何も叫べず、自由を奪われている。入隊してまもない兵隊をイメージしたという。滑稽な造形の中に、過酷な状況に置かれた人間の追い詰められた悲壮感が白黒の画面に潜む。