転機に立つ医療・4 働き方改革 「構想」との対応苦慮

 「緊急の場合を除いて、時間外や休日での面談や病状説明はお断りをさせていただいております」
 長崎市茂里町の日赤長崎原爆病院は今月から、こんな張り紙を院内に掲示した。国が進める「医師の働き方改革」の動きを受けた措置。手術前などの患者や家族への説明は、患者側が休みの土、日曜や夜間を希望することが多い。対応する医師は休日出勤や残業を余儀なくされるため、少しでも労働時間短縮につなげようと患者側に協力を求めている。
 昨年3月、政府は働き方改革の一環として、罰則付きの残業時間の上限規制導入などを柱とした働き方改革の実行計画を作成。だが、医師には医師法で、診療の求めを正当な理由なしに拒んではならないとの「応召義務」が課せられており、調整のため政府は医師への適用を5年間猶予。有識者検討会を設け、2019年の結論をめどに医師の規制の在り方を議論している。
 全国の大規模病院が、長時間労働や残業代未払いの労働基準法違反があったとして、労働基準監督署の是正勧告を受けていた実態も表面化。13~17年、高度医療を担う全国85の特定機能病院のうち、長崎大学病院(長崎市坂本1丁目)など7割超の64病院が勧告を受けていた。
 同病院によると、職員の研修時間の取り扱いなどを巡って、この間に4回にわたり勧告を受けた。現在は研修も残業に含めるように院内で徹底するなどの対策を採っている。医師が勧告の対象になったのは13年の1回だけで、以降は事務職や看護師だったという。
 ただ、同病院の増崎英明院長は「現在の議論を医療者に当てはめると、現時点では医師の数を極端に増やすか患者の数を減らすしかない。しかし患者を診療しないわけにはいかず、医師の数も簡単に増やせない」と頭を抱える。
 人手の不足や偏在が深刻な離島やへき地では、応召義務を背景に長時間労働をいとわない医師の熱意で地域医療が支えられてきた一面もある。長崎市の病院関係者の一人は「地方の医師は使命感や達成感、喜びで支えられてきた。働き方改革で、国は医師の心の中のことまで手を突っ込もうとしている」と本県への悪影響を懸念する。
 「地域医療構想」による大きな転換を求められるのと同時期に、医師の労働時間を厳しく制限しようとする働き方改革の動きも進んでいる。いずれも解決が不可欠な課題であることは確かだが、困難な対応を一度に迫られている地方の現場の苦悩は深い。

◎メモ/医師の長時間労働
 2016年に新潟市で研修医の過労自殺が発生。病院や診療所の勤務医を中心に問題となっている。厚生労働省の同年の調査では、病院常勤勤務医の男性の41%、女性の28%が週60時間以上働いていた。週の平均勤務時間は救急科や外科、産婦人科、臨床研修医で特に長い。同省の検討会は2月、患者への説明など一部業務を他職種に任せることなどを柱とする緊急対策をまとめた。

「患者、ご家族の皆様へ」と題し、待合室に掲示された張り紙=日赤長崎原爆病院

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