【現地ルポ】〈設備増強進むUACJタイランド(下)〉アルミ板増強工事が進展 21年に32万トン販売目指す

 UACJは2016年11月、タイのアルミ板圧延子会社「UACJタイランド」(UATH)に約370億円を投じる能力増強計画を発表した。19年下期までに工場増築と設備の据え付けを終える計画で、一連の投資が完了すればアルミ板の生産能力は現行の年18万トンから年32万トンへと拡大する。いわゆる〝フェーズ3〟と呼ばれるUATHの拡張計画はすでに動き始めている。

 〝フェーズ3〟では、すでに年50万トン以上の能力を持つ熱間圧延ライン以外のほぼすべてが能力増強の対象となる。増強のポイントは(1)溶解・鋳造(2)冷間圧延(3)仕上げ工程―の大きく三つ。いずれも既存工場の西側に建屋を増築中だ。

 19年下期からの稼働に向けて三つの拡張エリアでは、新建屋の建設工事が着々と進んでいる。缶材専用溶解炉や鋳造機が導入される鋳造エリアや、4基目の冷間圧延機を設置する冷延エリアは、掘作や基礎工事、建物の骨組みとなる柱の据え付けの真っ最中だ。

 「圧延機は、稼働中に見える部分はほんの一部。設置に際しては深さ10メートルのピットを掘り、圧延機本体のほかにもクーラントの循環設備や油圧・空圧機器などさまざまな設備が地下にセットされている」(土屋社長)といい、非常に大掛かりな作業が進ちょく中。建物の柱の工事も始まっているが、日本で一般的な鉄骨造ではなく鉄筋コンクリート造を採用。「日本では鉄筋を組むのにコストがかさむが、こちらでは鉄骨造で造るよりも安価にできるため一般的」(同)としている。

 UATHの工場増築を仕切るのは日系大手建設会社。ミャンマーやカンボジアといった周辺国からの出稼ぎ労働者ら約500人が、日々工場建設に汗を流す。製造所の敷地西側には、食堂や簡易的な商店も置かれるなど建設労働者による一種の街が形成されている。土屋社長は「日々景色が変わる現場だが、事故もなくスケジュール通りに施工は進ちょくしている」と説明する。

 〝フェーズ3〟では、年14万トンのアルミ板製造能力が追加される格好だが、その全量が缶材に充てられるため缶材専用ラインが導入される。鋳造ラインでは、現在最大の125トン鋳造設備がもう1ライン追加される。鋳造後の面削機(スカルパー)についても2基体制に強化される。従来は上面を面削後に反転させてから下面を処理する必要があったが、二つ縦に設備を並べることで連続的に上下面の面削処理が可能になる。

 4基目の冷間圧延機(2号機)は、1号ライン同様に6段ロールで板厚コントロールなどに長けた設備だ。他ラインに比べて自動化も進んでいる。仕上げ工程では、缶エンド材の熱処理と表面処理を連続的に行うCPCLラインを導入予定だ。既存ラインは熱処理と表面処理を分割したCPL、CCLラインだったが、顧客の増加に伴い塗装材の製品比率が増加していくとの見通しの下、より生産効率が高いCPCLラインの導入が決まった。そのほかにも熱処理炉や広幅スリッターなども設置される計画で、これらの設備をもって年32万トン体制は確立される。

 急ピッチで進む建設工事を眺めながら、UATHは早期黒字に向けて営業と製造の両面で競争力の強化を目指している。昨年11月に月間販売1万4千トンを記録し、初の月間黒字を達成したが土屋社長は「当初計画を下回る月もあった。また現在進行中の大型投資の償却負担がこれから乗ってくることを考えると、販売数量の引き上げと生産性の改善は不可欠。今後、年度計画は必ず達成する」と気を引き締める。

 来年度から始まるUACJの新中期経営計画において、『UATHの安定収益化』は最大のテーマとなるだろう。この課題に取り組むためには〝フェーズ3〟の早期立ち上げが急務だ。「19年下期の立ち上げ後、顧客の認証作業を経て21年には年32万トン販売したい。そのためにもフル稼働し得るだけの現場力を磨き上げていく」という土屋社長の下、UATHは一段の成長を目指していく。(タイ・ラヨン発=遊佐鉄平)

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