先生も頼る用務員さん 城北中の神名部さん 小田原市

職員用給食を配膳する神名部さん

 小田原市内の公立小中学校で卒業式が終わり、今年度は3141人の児童生徒が学び舎を巣立った。そのかたわら、校舎の美化や設備の補修など、縁の下の力持ちとして学校生活を支え続けた一人の用務員がまもなく定年退職を迎える。

 神名部(かなべ)則子さん(60)は用務員歴25年。福祉施設や鴨宮中学校を経て、10年前から城北中学校に勤務している。

 きっかけは夫の死。出産を機に独身時代から勤めていた会社を退職した神名部さんは、2人の子宝にも恵まれて厚木の新居で穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、夫が交通事故で突然他界。子どもは6歳と3歳で、「生活のために働かなくちゃ」と、悲しみにくれる間もなく実家のある小田原へ戻って職を探した。

 「子どものために、勤務時間が安定した仕事がしたい」という神名部さんに、民生委員が紹介してくれたのは市の職員である用務員。採用が決まり、女手一つで子どもを育てる暮らしが始まった。

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 神名部さんの出勤は、校内の誰よりも早い午前6時半。一日の業務は校門や昇降口の解錠に始まる。来賓トイレの清掃、電話番、職員用給食の配膳などルーティンワークもあるなか、用務員に大切な資質として考えるのは「気付き」。校内を巡回し、清掃や補修が必要な場所がないか目を配る。

 草むしりも、そんな気付きから生まれる業務のひとつ。夏は蚊取り線香が欠かせず、冬は寒さで手がかじかむが、「日の出が見られたり、いち早くツクシが生えてきたことを知られたり。季節を感じられることが楽しい思い出かな」。

 雨天時は、ゴミ箱に設置する新聞紙を再利用した袋作り。「母親譲りで、なんでももったいなく感じてしまう」。職員室で不要となった菓子缶やかごなどを見つければ、「これは使える」と用務員室の押入れに保管。そんな様子を知ってか、いつしか文化祭などの行事になると「何かないですか」と先生たちが訪ねてくる存在になった。

 「生徒が安全に学校生活を送れるよう、見えないところまで補ってくれる。安心して授業できるのは神名部さんのおかげ」と市川嘉裕校長。3月31日、惜しまれながら定年退職の日を迎える。

新聞紙で作ったゴミ用の袋

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