言葉ぶつけ合う真剣勝負 吉田修一「悪人」が二人舞台に

 俳優の中村蒼(27)、女優の美波(31)による二人舞台「悪人」が29日、シアタートラム(東京・三軒茶屋)で始まる。殺人を犯した祐一(中村)と、一緒に逃亡することを選んだ光代(美波)の物語は、吉田修一の同名小説が原作だ。稽古場で二人は、企画・台本・演出を手掛ける合津(ごうづ)直枝と取っ組み合うように言葉をぶつけ合っていた。

 「女を殺した」 声を絞り出した祐一。衝撃の告白に、光代のほおを涙がつたう−。

 やりとりをじっと見ていた合津は、美波に「祐一の言葉に反応して、体に触ってみようか」と促した。涙をぬぐった美波が「触れないよ!」と感情をあらわに。「分かったふりして触れることなんてできない」 ピンと張った空気を解くため、休憩に入った。

 フランス・パリに拠点を置く美波は言葉に敏感だ。対する中村は物静かで多くを口にしない。部屋の隅に座っていた中村に合津は「人を殺すって、半端な気持ちじゃないんだよ」と声を掛けた。

 「離れ離れになったとしても、『幸せになってほしい』と光代を思う祐一は悪人ではない」と中村。「人を殺してるのに?」と美波に突っ込まれ、また言葉の背景を探し始めた。

 合津の台本について美波は「私が感じていた孤独が描かれている。光代は私の分身。気持ちを代弁してくれている」と話す。「祐一との最も幸福な時間。腕や背中をさすり感じたぬくもりで、自分が存在していることを確認した」 稽古の雰囲気を、合津は「信頼しているから斬り合えるけれど、3人ともギリギリの精神状態」と吐露。「でも激突するごとに、言葉に血肉がついていく」と深化を楽しんでいる。

 舞台は90分。合津は「祐一と光代が抱えた痛みを観客にどこまで想像させることができるかが勝負。心がすさんで孤独でも、いつかは奇跡のような愛を見つけられる」と思いを込めた。

 29日~4月8日。前売り6千円、当日6300円(全席指定)。問い合わせは、テレビマンユニオン電話03(6418)8700(平日午前10時~午後6時)。

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