74分1カット映画『アイスと雨音』の舞台裏 松居大悟監督と、主演森田想に聞く

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映画『アイスと雨音』主演の森田想(左)と松居大悟監督<撮影:宮崎晃>

 映画『私たちのハァハァ』『スイートプールサイド』、ドラマ『バイプレイヤーズ』などの松居大悟監督の新作、74分全編1カットの映画『アイスと雨音』が全国順次公開中だ。今回は松居監督と主演女優の森田想(こころ)へのインタビューの一部を紹介したい。長めですがお付き合いのほどを。まずは製作の経緯を、下記の説明で踏まえていただければ幸いです。

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 東京・下北沢の劇場で昨年3月に上演予定だった舞台が、稽古直前に中止になってしまった。集客を不安視した出資者の意向だったという。仮チラシは既に撒かれていた。戯曲はサイモン・スティーブンスの『MORNING』で、出演者は少年少女たち。演出の松居大悟は「それが初舞台という子も多かった。興行的な判断としては正しいのかもしれないけど、かけてきた時間や気持ちはどうなるんですかって、腹が立って、人生で一番ってぐらい悔しくて」。気が治まらなかった。

 ちょうど、ラップと生ギターの2人組「MOROHA」のMC、アフロと飲む約束をしていたため、飲みながら愚痴をこぼすと、アフロから言われた。「松居さん、多分、半年とかたったらその怒りって忘れちゃうけど、それでいいの?」

 松居は「あの大人たちが一番悔しがる方法はないか」と考えた。2週間の穴があいてしまった劇場からは、「リーディング(朗読)公演とかで劇場を埋めてくれませんか」と声を掛けられたが、「それだとまだ負けてる気がして」、舞台が中止になってしまう少年少女6人の映画を作ろうと、一気に動き出した。

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◇松居:それで自主映画でやろう、オープンに、プロアマ問わずオーディションしようということで、何も決まってない中、1月末から2月ぐらいでまずMOROHAを口説いて、オーディション文句を作ったりして、2月中旬ぐらいに(告知を)出して、募集期間が10日間ぐらいあって、3月頭に書類(選考)があって、面接して、翌々日から2週間ぐらい稽古して撮影に入ったんです。

▼記者:翌々日から?もう?

◇松居:オーディションの時の条件として、「3月の何日から何日まで空けられる人」ってやり方をしてて、オーディションを2日間やった日の夜にもう(キャストを)決めて、翌日に決まった役者合わせで台本を作り直して、その次の日に稽古始まるっていう。最後に土日2日間カメラを回して、1日2回しかできないんで、一応テイク的には4回、土曜はリハーサルを兼ねてですけど。映画に使ったのは最後の日曜の2回目です。

▼記者:森田さんはどのようにこの企画を知って、加わっていったんですか。

●森田:twitterで松居さんをフォローしてて、そこで募集の記事を見て、そしたら事務所の方から「オーディションを受けてください」ってきたので、

◇松居:あ、想から言ったわけじゃないの?

●森田:私から言うとかはなくて。でも絶対(事務所から受けてという話が)来ないわけがないと思ってたんですよ。来るのが当たり前だろって(笑)思ってたから、それで行ったら受かって。

◇松居:オーディションでやる用の本って、当日もらった?

●森田:2日前ぐらいです。

◇松居:あれどうだった?

●森田:意味分かんなかった(笑)

◇松居:意味分かんなかったよね。

▼記者:分量はどうだったんです?

◇松居:『MORNING』の戯曲から抜粋したのを3ページとか。

●森田:そうです。本編で使った劇中劇を、断片的に組み合わせた台本だったんです。だから最初、部分部分、感情が変わり過ぎてて意味が分からなくて、「これが、松居さんのワールド?(声裏返る)」って(笑)。役を取るためのオーディションで、あんな難易度が高いのがくると思わなくて、めっちゃびっくりしました。「これは、やばいな」と。

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▼記者:松居さんは、なぜ森田さんに決めたんですか?

◇松居:正直めちゃめちゃ難しいから、みんなせりふを追っかけるのでやっとだったんですけど、森田想はできてたんですよいきなり。できるわけないと思ってたのに。あの中で多分1人だけだと思う。普通にできてるというか、せりふがなじんでいて。オーディション2日目の一番最後のブロックで、それまで何となく主役は「この人かなぁ」とかはイメージはできてたんですけど、最後に(森田が現れて)全部吹っ飛んで、プラス、田中玲子という子が(演技)初めてで、その子はいいなと思っていたら、想と2人での感じもイメージがすごいしっくりきて。

▼記者:森田さんはものすごく気合い入れて行ってたんですか?

●森田:せりふに対しての気合いはもちろんあります。例えば1回かんだりとかしたら、多分自信がなくなっちゃう。流れを保たないと終わるなって思ったので、とりあえずせりふを覚えなきゃって思って。でも基本、あんまり自分で考えて決めても、行って相手とやると全然変わっちゃうので、せりふだけ覚えて、それ以外全部その場でやろうと思ってたので。待合室とかすごい待ちが長くて、緊張はしてたんですけど、あんまり気負わずやりました。

◇松居:想のチームで、想と組んだ人がみんなうまくなったんですよ。多分それは、想と共演することによって。「あ、多分、この子が真ん中にいたらみんなを引き上げてくれる」っていうのがあったっすね。受かるだろうって思ったでしょ?

●森田:うん。でも主役はやったことなかったんで、「こんな早い時期に主役をやるわけはないだろう」って思ってたんですけど。ただ、(役のどれかに)決まることは決まるなって思いました。募集を見た時に普通に「決まるな」と思いました。

◇松居:あそう!?

▼記者:募集を見た時点で?

●森田:何か、普通に、「やるんだな」って(笑)。

◇松居:へー。そう思って、でも決まらないこともある?

●森田:「決まるかな」ぐらいまでで決まらない時もあるんですけど、何て言うんですか、テスト前の無駄な自信みたいな。「いや、やるでしょ」っていう。だから、そのオーディションの次の週の友達の誘いとか「あ、ごめん、多分何か入るから」って(断ってた)。

◇松居:まじで! すごっ!

▼記者:かっこいい!

◇松居:かっこいい!

●森田:(爆笑)

▼記者:そんなかっこいいことってありますかね。

●森田:違う、私も結構初めてでした。何でか分からないですけど。募集見た時に「かなぁ」って。

◇松居:「決まるだろう」と。すごっ。

▼記者:いいですね、ゾワゾワしますね。

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▼記者:松居さん、これをワンカットで撮るっていうのは、この話は止めるわけいかねぇってことでいいんですか?

◇松居:あ、それは、プロデューサーの阿部(広太郎)君がうまいこと言語化してくれたんですけど、僕は、舞台が中止になったっていう映画を作る、舞台は開演したらカーテンコールまでそのままいっちゃうっていう意味で、ワンカットで撮ろうっていうのは割と自然に。「ワンカットでやってやろう」感っていうよりは。

▼記者:森田さんは、これを全部一連で撮るんだって、いつ知ったんですか?

●森田:本読みの時にみんな全体に言われて。「これは1回も止めません」って。

▼記者:それは松居さん、オーディションより後ですね。

◇松居:オーディション後に全員そろった時に。

●森田:「これは1回も止めずにやります」って。それはほんとに、飲み込めませんでした(笑)

◇松居:(笑)

▼記者:(笑)

●森田:「どういうことだ?」って。でも(松居監督と)初対面でしたし、そんな何か、あんま聞き返すこともできなくて、その後マネージャーさんと「あれ? どういうことですかね?」って(笑)。ちょっとびっくりしましたね。

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<映画は舞台1カ月前の稽古場シーンから始まる。カメラが森田に寄り、再び稽古場中央を向くと、机や人の配置が換わっていて、「本番3週間前」の字幕。そうして時間をスキップしながら1カ月間を描いていく。MOROHAが随所に現れ、芝居に直接は絡まないが、ドラマや俳優を駆り立てるように、時には伴奏のように、音と言葉を奏でる)>

▼記者:どういうふうに作っていったんですか?

◇松居:舞台みたいでしたね、最初の1週間は普通に大きい場所でお芝居つけて、お芝居は最初から最後まで通すように作って、後半1週間でMOROHAだったり、カメラマンだったり、制作部とかが来て、どうやるかをお芝居を見ながら考えるみたいな。

▼記者:そこから考えるんですか。

◇松居:そうそう。僕らはワンカットでやりたいんだけど、カメラマンの人たちに見せて、1カ月間の話で、時間経過をしたいから、稽古場がちょっとずつ美術が出来上がっていって、最後いきなりなくなって、とか作戦を立てたんですね。アナログでしたね。

▼記者:MOROHAのアフロさんがしゃべっている部分は、松居さんは書いてないですよね。

◇松居:書いてないです。この歌を歌ってほしいっていうのは決めてたんですけど、しゃべりはアフロに任せたんです。

▼記者:映画を見ていると、最初やっぱりカメラの、いつも松居さんと組んでいる塩谷(大樹)さんがどれほど大変だったろうというのと、チームワークが一体どうなってるんだろうと思いました。塩谷さんの動きは直前になるまで決まってないんですか?

◆松居:だんだんと固まっていったんですよね。塩谷君の後ろには録音部と助監督の2人しかいなかったんですけど、厳密ではないですけど、場所が転換するタイミングとか、いろんなところで、カメラは絶対にこっちは向かないよ、みたいなことは、決まってて、その間にこっちが転換しなくちゃいけないとか。最初は玲子と想が2人で(全体の)読み合わせから立ち上がって、壁の方に行ってカメラが向いている間にみんなで机運んで。

▼記者:それはもう出演している方みんなでやってるんです?

◇松居:みんなでやってます(笑)。

▼記者:いいですね(笑)、そういうことですよね、何かうれしくなっちゃいますよね。☆(ノーブレークスペース)今回使ってるカメラは小っちゃいんですか?

◇松居:小っちゃいです。これ(一眼レフカメラ)ぐらいの大きさじゃないですかね。ソニーの。想の(稽古場の隣の)部屋とか狭すぎるから。

▼記者:カメラは気にならなかったですか?

●森田:気にならないように、気にしちゃだめだって思ってましたし、でも大抵そうしても気になること多いじゃないですか。稽古中とかに「常にここにカメラがあるから」って動線を教えられてたんで、慣れはしました最後の方は。

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▼記者:最初から最後まで一発で撮るっていうことを、「いいな」と思う時がどこかでやってくるものですか?それとも最後まで「ほんとかよ」って感じですか?

●森田:何かもう感覚が麻痺しちゃって、普通の映画とかドラマは、「長回し」っていっても、何分じゃないですか。それでさえちょっと「次一言でも、しくっちゃだめ」みたいなことを思うのに、どうして私たちは70何分もこんなに堂々としてるんだって(笑)。だからすごい麻痺しちゃって、普通に「74分? いいじゃん、やろ」ってなっちゃったので(笑)。だから最初の方で受け入れちゃって、体を慣らしてましたね。

▼記者:素人から見たら、70分もあったら、「自分が1回せりふをかんだら終わりなんだろうな」という恐怖があるだろうと思うんですが、それは感じなかったですか、見ていて。

◇松居:そうですね、もう、かむかまないってあんまり重要じゃないなというか、むしろ30分ぐらいたって稽古場から外に出た時の状況ですよね、人止めができないから、状況が読めない。そこでヘンな人に絡まれたりしたら本当に嫌だなって。

▼記者:下北沢で。

◇松居:日曜日だったんで。

●森田:人が多い。

◇松居:通行人がカメラを見ちゃうとそれは使えないからなあ、とか、あと日曜日は雨が降ってきたから、それもちょっと絶望して。

▼記者:あれ?『アイスと雨音』って題名だからいいんじゃなくて? 題名はいつ決まったんですか?

◇松居:題名は先に決まってたんですけど、雨降らしを準備してあったんですよ、(登場人物が向かう)劇場の前に。土曜日は普通にリハーサル含めてやって、晴れていて、「じゃあ日曜日、本番頑張ろうぜ」って言ってたら、雨が降ったからもう、態勢が全部、雨が降ったらカメラも濡れる、養生して、マイクもどうこうとかがあって、しかも1カ月間の話なのに(ずっと雨が降っていては)時間たってる感が出ないわってなったんです。けど、ちょうど想が(稽古場から)1人で外に出る時に雨がやんで、紅甘と2人で歩く時は雨が降ってきて、(キャスト越しに画面に映りこむ)抜けの人が全員傘をさしてるってことが偶然起きて。あれは神様がほほえんでくれたなと。劇場前は雨降らしはしてたんですけどね。

▼記者:『私たちのハァハァ』の中で、夜の狭い路地裏で女の子たちが口論する一連の部分があったじゃないですか。

◇松居:はいはい。

▼記者:あの場面が私は好きで、カメラがこう(巧みに)動いてるなっていうのを、面白く頭半分で感じながら、ドラマにも集中しているっていう楽しい場面だったと記憶してたんで、今回のこれが、何て言うんだろう、

◇松居:ずっとそうですね、あそこからつながってるみたいな(笑)。

▼記者:そうなんですよ。

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▼記者:では、感情面の話なんですが、そもそも今回の映画は松居さんの個人的な話じゃないですか(笑)。そもそもはですよ。怒りというか、そういう感情をどうにかしなきゃという経緯で作ったということが、私には予備知識としてありました。ただ、主人公は舞台に出演する女性であって、松居さんとは立場が違う。映画を見ているといつの間にか私は森田さんの役に移入していたというか、まんまとはめられたような気がしました。

◇松居:はいはいはい、いいですよ(笑)。

▼記者:これは何でしょうね。例えば、劇中で松居さんはわざと、ちょっと嫌な演出家像を演じたわけですよね。

◇松居:いやいや、あれは僕自身ですよ。

☆一同笑

◇松居:ちょっとわけ分かんないこと言う演出家。

▼記者:舞台の中止を告げに来る人がいて、森田さん演じる主人公は、もちろん「ふざけんな」って思っているけど、その時、稽古場を出て行く演出家役の松居さんの態度がね、あれがムカつくんですよね。

◇松居:(笑)

▼記者:映画を見ながら自分に気付くんですよ、「あ、俺は松居さんに怒ってるんだな」って。

☆一同笑

▼記者:あれが、はめられたってことですかね。ちゃんと森田さんの方に気持ちが入っちゃう。

◇松居:この企画をやろうってなったスタートは怒りだったんですけど、オーディションとかしていって、じゃあ読み合わせしよう、稽古しようってなっていった時に、もう僕の悔しさをどうしてやろうか、とかは割と置いていかれて、それよりもこのメンバーが輝く面白いものを作ろうっていう方になっていったし、何なら、撮影自体も僕はもう何もできないから、カメラマンに託すしかないし、お芝居つけるしかないし、となっていって。それで、最後に「カット」をかけた瞬間に全て報われた気がしたんですよ。作っている過程では、いかに自分の感情を出してやろうかっていうようなことは全くなかったですね。

▼記者:森田さんは、細かい経緯、なぜこの映画を松居さんが作るのかということは、もちろん聞いて入ってるんですか?

●森田:そうですね。本読みの時に、なんでこうしたかとか、だからこうしたいっていうのは全員に監督が話してくださって。その後にいろんなスタッフの方々もすごい熱いコメントを話して、それを全員で聞いて、なんかこんなに一人一人すごい個人的な感情を(あいさつで)出す本読みが初めてで(笑)。次、私が話す番だってなった時に、最初だし、あんま長くもいけないし、ヘンなことも言っちゃいけないしって思ってたんですけど、いろんな人の感情がほんとにのった作品なんだってことを、すぐにそこで理解したので、しょわなきゃって感じました。

▼記者:この映画のスタッフも、元々の中止になった演劇に関わっていたんですか?

◇松居:演劇をやる予定だった演出助手とか舞台監督さんとか美術とかは入ってて、あとキャストの紅甘は舞台に出る予定だったんです。でもあらためてゼロからリセットして(映画用の)オーディションをやったんです。

▼記者:思いを「しょわなきゃ」と思ったということですが、演じている時はどうでしたか?

●森田:演技をすること、過程はもちろん楽しいものなんですけど、後ろには、嫌な感情っていうか、松居さんの感情だったり、みんな個人個人持ってきたものがあったし、自分の中にも、そうだよなって共感するところはあったので、意識はしてないけど、忘れることはなく持ってましたね。

▼記者:撮影が終わった瞬間はいかがでしたか。

●森田:なんか、終わったは終わったっていう実感があったんですけど、すごい重くて頭が、ショートしてるような感じで。「カット」かかって自然にみんなでわーって集まるんですよね。集まった時に、なんか達成感とかは本番が終わった日に寝て、次の日に起きないと達成感とかが起きなくて、その日は、カットかかってみんなでわーっと集まって、スタッフさんが来て、みんな泣いてるんですよ(笑)。やめてくれ~って思って(笑)。その時はすっごく、寂しかったですね。すごい小さい自分に戻った気がしました。解き放たれたとか、やっと終わったっていう感情にはすぐにはならなかったです。混乱して、その後、クランクアップしたコメントみたいなのも、全然なんかもう何も言えなくて(笑)、同じ言葉を繰り返して、みんなそんな感じで。

▼記者:同じ言葉って例えばなんですか?

●森田:「なんか…」とか(笑)、「ほんとに…」「皆さんが…」って同じ単語をずーっと言ってて(笑)。

◇松居:(笑)「感謝」って。

●森田:そう、「感謝…感謝…」ってずっと。

▼記者:それは、もし全編ワンカットじゃなかったらそこまでにはならなかったですか?

●森田:ワンカットだから気持ちがずっと続いてたんですよね、何なら2週間ずっと。それが本当の「カット」の一言で一気に終わっちゃったんで。普通の映画とかだと、「カット」「カット」「カット」で、次の日またやるよ、で、その間は本来の自分に戻っちゃう時間がありますけど、今回2週間はそれがなくて、ずっとその世界にいたっていう感じでしたね『アイスと雨音』は。家帰っても、「明日早く行って、早くあの空気に戻らなきゃ」っていうのはありました。ずっとその円の中にいて、だから、普通の作り方をした映画とは本当に全然違う感じでした。

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▼記者:ただ、私だけか分からないですけど、途中でワンカットだってことを忘れません?

◇松居:あ、それ!一番嬉しいですね。

●森田:うん、すごい言われます。

▼記者:そうなんですね。なんかもう、やっぱりワンカットだからどうだとか、そういうことじゃなくなるんですね。

◇松居:ドラマとか想を追っかけたら、そうならなくなるんですよね。

▼記者:ですね。でもやっぱり松居さんらしいって言ったらおこがましいですけど、例えば「本番○日前」と字幕を出して、カメラの向きが変わっただけで、進んでっちゃえっていうのは、自由でいいですよね。

◇松居:そう、なんか、ワンカットでやるってなって、いわゆる夜から朝が来るまでとか、同時間軸で動くのは。まあ見たことあるなぁと。ワンカットでやるなら見たことないものにしようと思ったし、中止になるっていう話もあったし、じゃあ時間が跳んでいくにしようって思って。転換が大事なんじゃなくて、時間はここで変わったっていうのをこっちが言っちゃえば変わるんで、ある種そこは割り切っていきましたね。

▼記者:ドイツのワンカット映画『ヴィクトリア』(2015年)は見てました?

◇松居:見ました。

▼記者:あれは、まさに夜から朝までのリアルタイムの全編ワンカットですよね。

◇松居:そうですそうです。140分ワンカット。あれと同じようなことをやってもつまらないので、どうせやるなら、今までないものをやろうと思ったんですよ。

▼記者:演劇だと、観客の想像力を使って、見立て一つで時空をスキップするし、違う時空を同時に存在させることもある。演劇も経験している方じゃないと、それを映画でやろうという時に「ダイジョブだから」ってことになりにくいでしょうね。

◇松居:そうですね、そうですね。

▼記者:舞台らしい感じがしますね。

◇松居:で、スタッフで演助(演出助手)で入ってくれた川名(幸宏)君が舞台ずっと一緒にやってた子だから。それで転換とかも相談して、具体的なアプローチもすごくしましたね。

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▼記者:土日で全部で4回、やってみて、つまずいたことはあったんですか?

◇松居:シモキタの外で、車でめっちゃクラクション鳴らされて、「バカヤロー」って怒鳴られたりはしました。でも一応、本当に絶望的なことが起きない限り止めないでやろうってことは決めてたんで、最後までいってというのはあったけど、まあ、いろいろあったっすね。通行人もそうだし、雨降ったもそうだし、結構見切れるんですよね、想の芝居に合わせて動く時に、(スタッフらが)逃げ切れないとか多くて。あとOKテイクもめっちゃ消してるんですよ、窓に映った録音部とかカメラマンとかめちゃくちゃ多かったので、その消しものに1カ月ぐらいかかりました。

▼記者:森田さんはほとんどずっと映ってますもんね。

●森田:(笑)ほとんどっていうか全部。

◇松居:一瞬アフロが映るっていっても、ま一瞬(笑)。

●森田:(笑)一瞬。

▼記者:ですね、ほぼ出ずっぱりですね。自分から、もうこれは駄目だっていう時はなかったですか?

●森田:もちろん1回1回、これで決めようとか、これは絶対にしくらないぞ、とかは、みんな思ってたんですけど、とはいえ、やってて焦ったりとか、一瞬でも「これが終わっちゃう」とか無駄なことを考えちゃうと、ガラガラガラって崩れちゃって、直そうとしても、そのことでごちゃごちゃしちゃうっていうことはありましたね。

◇松居:ちょっと糸が、集中が切れたらね。

●森田:「切らさまい」と、し過ぎて切れたのか…。

◇松居:全員が集中してやってないと、1人切れたらみんな巻き込まれちゃうから。

●森田:ただ私は、他の人の動きを一切知らないんです。

◇松居:裏のね。想の前にはずっとカメラマンがいるから。

●森田:(笑)。裏で何が起きているか何も分からないので、その人たちがどう思ってるとか、どういう顔してるとかっていうのも、もう信じるしかないので、全員が全員を補い合いつつやるっていう面では、そういう雰囲気も伝わっちゃう、ある意味で。

▼記者:大変ですね、やっぱり聞くほどに。

◇松居:しかもあの、ヘアゴムがさ。

●森田:あー(笑)

◇松居:ヘアゴムを想が手首に着けてなくちゃいけなくて、(劇中、稽古場隣の部屋で)着替え中にそれで髪を結ぶって段取りだったんです。でも楽屋かなんかに置いてたんだっけ? 「ヨーイ、スタート」で始まっちゃって、しかも、日が暮れちゃったら終わりだから1日に2回しか撮れない中の、日曜日の2回目。ラストなんで、もうこれで決めようっていうムードの時に、「スタート」ってかかったら、メイクの人がワーって走って「どうする?まだヘアゴムここにあるよ」って(笑)。でももう始まってるし、どうする?ってなって、カメラの後ろについてる助監督がそれを受け取って…。

●森田:紙で(笑)、紙に「ヘアゴム、椅子に置いてあります」って(笑)、私に。

◇松居:(笑)本番中に紙を出して。

▼記者:(笑)カンペを森田さんに見せたと。

●森田:それが(本編として)使われた回ですよ。あれはビビリましたね、

◇松居:それで途切れなかったからよかったよね。途中で「あ、ヘアゴムない!」ってなったら焦るからさ。

●森田:でも、(紙を見せられて)その後すぐにせりふを言うシーンじゃなかったから、(椅子の上のヘアゴムを取って椅子に座り)台本読んで、何事もなかったようにハーって感じで(手首につけた)。

◇松居:すごい。

▼記者:今やデジタル撮影ですけど、フィルム時代の、フィルムを無駄にできない緊張感を今にして味わうみたいなことで、いいですね。

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▼記者:森田さん、もしまたこういうワンカットの映画があったら、出たいと思います?

●森田:もう怖くないですよね、やっちゃったから(笑)

◇松居:(笑)。70分ぐらいだったら物足りなくなるでしょ?

●森田:これからもし普通の作品で「ここは長回しです」って言われても、「いや、は?」ってなりそう(笑)。

☆一同笑い。

▼記者:「その程度で長回しですか?」と(笑)。でもやっぱり、舞台とは違うわけですよね。

●森田:私、舞台は1回もやったことがないんです。今回の稽古の段階が舞台っぽいなっていうのは分かるんですよ、毎日同じことやるから。でも実際には経験したことないし、舞台の声の出し方とかそういうのも何も分からない。映像ばっかやってるので。でも、知らなくて良かったのかなとも思うんですよ。

◇松居:そうだね。

●森田:だからといって、これが舞台だっていうのも違いますし。

▼記者:松居さんはどうですか?

◇松居:そうだと思います。舞台でもあり映画でもあると思ってるんですけど、これを毎日繰り返してると多分死んじゃう、多分ほんとに。「命を燃やしてやるんだ」って劇中で言ってた通りに作ってたから、そんなに繰り返すものじゃないし、一発勝負、ここで決めなきゃって思いで全員やってるから、それを切り取るっていう作業の方が強かったですね。

▼記者:松居さんの映画で、息づかいみたいなものが見えるっていうか、言葉にならないところが映りこんでくるところが、やっぱりいいですよね。今回は松居さんが不愉快だから作ったと聞いていたものの、見てみると、若い人たちがすごく不満そうだし、爆発するし、虚実があいまいになっていく仕掛けもある。

◇松居:うんうんうん。

▼記者:最後に、『アイスと雨音』のタイトルはどこから?

◇松居:舞台中止になったっていうのをモチーフに映画を作ろうと考えた時に、とにかくいろんなものに憤ったりしつつ、何かでも、救いはあるよなって思った時に、こころ役の想が好きなものが、アイスと、雨が屋根に当たる音だったのが、自分の中ですごい好きな要素で、いいなって思って、主人公の好きなもの二つ、アイスと雨音で、これがあれば現実に戻ってこれるみたいな意味です。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第109回=共同通信記者)