「サッカーコラム」短期間でのコンビネーション構築は必須 W杯メンバーはおのずと決まってくる

ウクライナに敗れ、厳しい表情の長谷部(左から2人目)、長友(5)ら日本イレブン=27日、リエージュ(共同)

 一つの目安とはなるのは確かだろう。だが、国際サッカー連盟(FIFA)が定めるいわゆる「FIFAランキング」というものをあまり信じていない。もちろん、トップ10に入っている国であれば間違いなく強いというのは分かる。ただ、ワールドカップ(W杯)出場国と不出場国が入り乱れる30位以降になると、それぞれの実力が正しく反映されていると思えない。

 W杯ロシア大会の本番まで3カ月を切った時点で行われた日本代表のベルギー遠征。55位の日本が、67位のマリに1―1で引き分け、35位のウクライナに1―2で敗れた。しかし、W杯に出場しないからと言って、両国のランキングを額面通りに受け取ってはいけないだろう。

 FIFAランキングの順位はポイント制で決まるのだが、W杯出場が掛けて真剣勝負する地域予選において獲得できるポイントが大きく関係している。2022年のW杯カタール大会に向けて、歩み始めているマリやウクライナを、高校サッカーで例えると「主力の3年生が抜けた新チーム」だ。現時点での両国の実力がランキングより下だった可能性は十分にある。

 ハリルホジッチ監督は、ウクライナ戦後の会見で「敗戦で喜ぶことはもちろんできない」と前置きしながらも、次のように述べたという。

 「しかし、前の試合(マリ戦)より良かったと思う。悪くないものもたくさん見られた」

 「われわれよりゲームコントロールができるチームと対戦したが、しっかりと戦えた」

 「今回はケガによって3、4人の選手を欠いた。大会(W杯)のときは、もう少し競争力のある戦いが見せられると思う」

 普通に考えれば、敗戦に加え内容も悪いのに「何を言い訳しているんだ」という感じだろう。試合を見た多くの人はハリルホジッチ監督の、現実を直視していないような物言いに怒りさえ覚えたに違いない。だが、「普通に考える」というわれわれの感覚そのものが、あくまでも日本人的なのかもしれない。

 現実を素直に受け入れる。素直に謝る。これは日本人にとっては、常識であり美徳だ。ところが、当たり前と思われる常識は必ずしも世界の常識ではない。そういう視点で見れば、ハリルホジッチ監督の発言は、本人としては当然なのだろう。発言をはぐらかして非を認めない。永田町の一部の人々の常識も、世界基準なのか。このように考えれば、いちいち腹を立てなくても済む。

 そうはいったものの、心配はある。ロシア大会に臨む今回の日本代表には正直、「形」が見えないのだ。もちろん過去にも大会直前までうまくいかなかったチームはあった。10年南アフリカ大会のチームなどは、その好例だろう。それでも、当時の岡田武史監督はやりたいサッカーの「ビジョン」をはっきりと持っていた。その理想が無理だとわかると、本田圭佑をトップに、阿部勇樹をアンカーに置くという大胆な方針転換でベスト16の結果を残した。勝負事だから、何が吉と出るかはわからない。それでも、絶対に動かしてはいけない軸。それが「形」であり「ビジョン」なのではないか。

 今回のハリルホジッチ監督のチームは、監督自身だけでなく、日本協会自体にビジョンがなかったのではないだろうか。アギーレ監督を途中で解任するという非常事態ではあったが、14年ブラジル大会でアルジェリアを率いて残したベスト16という成績だけで監督を選んでしまった気がする。

 優勝したドイツを延長戦まで追い詰めたアルジェリアの健闘。その功績はハリルホジッチ監督にあることは疑いない。その試合内容を見れば、FC琉球でプレーしたこともあるGKライス・エンボリの神がかりの守備があったことも見逃せない。残念ながら現在の日本代表には、勝敗を個人の力で左右できるこのような選手は見当たらない。

 ベルギー遠征での2試合で、むやみに縦パスを繰り出し、簡単にカットされカウンターに転じられる場面が数多くあった。多くの選手が「縦パスだけではだめ」との感想を漏らしたというが、相手のゴールに最短で迫る縦パスは必ずしも悪いわけではない。ただ、守備側にとって、それが単調ならば対応はたやすい。自分たちに向かってくるボールを処理すればいいのだから。それゆえ、攻める側は相手をわなにかける一工夫が必要なのだ。

 相手を惑わせるために、必要なもの。それは、コンビネーション以外にないだろう。敵に悟られず、味方には「このプレーを繰り出すかもしれない」と予測させる。プレーの経験を共有した者だけにできることだ。

 選手の入れ替わりが激しいためだろう。ハリルホジッチのチームにおいては残念ながら、攻撃におけるコンビネーションはこれまでほとんど見られない。結果として、日本人に合ったチーム作りのビジョンは皆無だった。

 残された時間はわずか。本大会直前に3週間実施する合宿と、予定されている三つの親善試合だけだ。限られた短期間のなかで、コンビネーションを築き上げる方法はただ一つ。お互いのプレーの特徴を知る選手がグループを組むことだろう。そうなれば最高ではなくとも、ロシアで戦う最善のメンバーは、おのずと決まってくるはずだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。

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