抵抗の歌

 心して聴くべき、と分かっていながら、どっぷり浸れない音楽に「プロテストソング」がある。政治的な抗議を含む歌のことだが、どこか説教くさい気がして…と“聞かず嫌い”は思い込んでいた▲フォークミュージック界を代表するこの人は40年前、その名も「プロテストソング」というアルバムを出した。東京で先ごろ、シンガー小室等さんの話を聴き、弾き語りを聴いた。御年74歳▲詩人の谷川俊太郎さんと組んだその1枚は、ベトナム戦争終結から3年ほどたって世に出た。その頃、米国のシンガーは「徴兵から帰り、戦争と対峙(たいじ)して歌っていた」▲なのに自分はどこか高みから歌っているな。こぶしを振り上げず、自分なりの「抵抗の歌」を。そう思って谷川さんと一緒にやったらしい。とがった言葉を使わない、そんな抵抗だったのだろう▲昨秋、また谷川さんと組んで「プロテストソング2」を出した。北朝鮮情勢をはじめ「戦」の足音を感じ取っては「ひどい世の中」だと思うから、と▲その「2」の曲の一節を。〈何の主張もせぬ旗を ひるがえせ春の野に〉。「主張しない旗」って矛盾ですね、と前置きして小室さんは歌ったが、いや、分かっておられるだろう。角張(かどば)った言葉ではなく、声高でなく、高みからでもなく、抵抗の旗を振る。矛盾はない、と。(徹)

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