【水素還元製鉄技術開発プロジェクト「コース50」の展望】〈18年度からフェーズ2〉実用化へ最終段階 「スケールアップ」が課題に

 二酸化炭素(CO2)排出量を抜本的に削減できる製鉄プロセスの技術開発を目指す国家プロジェクト「COURSE(コース)50」が2018年度から第2フェーズ(18~25年度)に入る。開発技術の大きな柱となる水素還元製鉄法はこの10年間の研究開発で基盤技術の確立にめどが付いた。フェーズ2ではいよいよ実機規模を想定した技術開発に移る。(石川 勇吉)

 水素還元製鉄法は鉄鉱石の還元に水素を活用する技術。既存の還元材である石炭由来のコークスの一部を、燃えても水しか出ない水素に置き換え、高炉からのCO2排出を削減する。

 これまでの技術開発は順調だ。高炉で水素を用いるための新しい操業条件を見いだし、試験高炉(炉容積12立方メートル、出銑能力日量約35トン)で検証作業を実施。CO2排出を約1割減らせることを確かめた。

 高炉で水素を利用する上で大きな課題となるのが水素の吸熱反応。鉄鉱石を還元する際に周囲の熱を奪う化学反応のことだ。単純にコークスを水素に置き換えると高炉内の熱収支が崩れ、鉄鉱石が溶けにくくなるなど操業が成り立たなくなる可能性がある。

 このハードルを乗り越えるため、これまでに高炉内で熱収支を維持できる最適な操業条件を考案。「試験高炉でCO2を約1割減らしつつ安定操業できると検証した」(プロジェクトリーダーの荒木恭一新日鉄住金製銑技術部長)。

 一般的に高炉内で起きる還元反応には(1)一酸化炭素ガスによる還元(全体の6割、発熱反応)(2)微粉炭に含まれる水素による還元(同1割、吸熱反応)(3)炭素による直接還元(同3割、吸熱反応)―の3種類があるとされる。

 今回考案した新たな操業条件では、これら3種類のうち、吸熱反応を伴う「炭素による直接還元」の割合を引き下げる。こうすることで、同じ吸熱反応を伴う水素還元の割合が増えても高炉内の熱収支が崩れずに済むわけだ。この狙い通りに還元反応が進むよう水素の吹き込み条件を最適に調整し、試験高炉での検証を成功裏に終えた。

 コース50では水素還元製鉄法に関連し、製鉄所内で水素を製造するための技術開発も並行して進めている。水素源はコークス炉ガス(COG)だ。COGが含むメタンなどを独自の触媒で改質し、もともとCOGに含まれる水素の濃度を55%から63~67%以上に、体積を2倍以上に高めた水素ガスを造り出すのが目標となる。この技術についてもこれまでにベンチプラントでの検証を終え、基盤技術の確立にめどを付けた。

 こうした成果を踏まえて18年度から始まる8年間の第2フェーズ。水素還元製鉄法は30年度の実用化を目指しており、第2フェーズは実用化に向けた最終の開発段階という位置付けになる。

 第2フェーズの課題はずばりスケールアップだ。実際の高炉は炉容積4千~5千立方メートル級。試験高炉の数百倍の規模のため、「試験高炉で確かめた炉内反応が実際の高炉でも全く同じとは考えにくい」(同)。とりわけ炉の直径や羽口の数は大きく異なる。炉の直径が格段に大きい実際の高炉の中心部まで水素をどう到達させるかが操業技術面の一つの大きな課題になりそうだ。

 第2フェーズではまず、試験高炉を用いた実証試験やシミュレーションを行い、その上で実際の高炉を活用した技術の検証作業に入る見通し。

 こうした操業技術の確立に加え、フェーズ2では水素還元製鉄法を実機化するための具体的な設備についても検討を進めなければならない。高炉は通常、水素の吹き込み設備を備えていない。つまり実用化には水素ガスを加圧し高炉内へ吹き込む新設備が必要となるわけだ。

 現状では白紙の状態だが、既存技術の微粉炭吹き込み設備と同じ規模を想定した場合、高炉1基につき数十億円規模の投資が必要になると推定される。これとは別にCOGの改質設備も検討が要る。新たに必要な設備をできる限り低コスト化していくことも大きな課題になる。

海外勢の水素還元製鉄技術開発/高炉法と一線画す/プロジェクト実質中止も

 海外の鉄鋼メーカーも水素を利用して抜本的な二酸化炭素(CO2)排出削減を目指す製鉄プロセスの技術開発に力を入れている。

 北欧の高炉メーカー、SSAB(スウェーデン・スチール)は、鉄鉱石の還元材として石炭を使わない100%水素還元の製鉄プロセス技術開発プロジェクト「HYBRIT(ハイブリット)」を打ち出している。大胆な水素利用プロジェクトだが、高炉法を前提としていない点で日本の「COURSE(コース)50」とは一線を画す。

 ハイブリットでは、水素で鉄鉱石を還元するシャフト(竪型)炉型の直接還元炉と電炉を組み合わせる新プロセスを想定。高炉法と比べてCO2排出を半減するのが目標だ。まずは18~24年に事業化調査(FS)などを進め、25年からデモプラントを稼働させる方向で検討している。

 欧州ではアルセロール・ミッタルなどが参画する「ULCOS(ウルコス)」と呼ばれる技術開発プロジェクトもある。ただ、経済性の観点から研究開発が滞り、今は実質的に大半の計画が宙に浮いた状態だ。

 ウルコスの当初計画では(1)ガス循環型高炉(ULCOS―BF)(2)石炭ベースの溶融還元炉「HIsarna(ハイザーナ)」(3)天然ガスベースの直接還元シャフト炉「ULCORED(ウルコアード)」(4)鉄鉱石を電気分解で還元する電気分解法「ULCOWIN(ウルコウィン)」―を主要な開発技術として想定していた。

 このうちハイザーナについてはタタ・スチール・ヨーロッパが中心となり現在も開発が続けられているようだ。11年にオランダのアイモンデン製鉄所内に日量8トンのパイロットプラントを建設。さらなる大型の試験プラント建設も検討されているという。

 同技術は高炉法と比べて20%のCO2排出削減が目標だ。ただ大型化するほど技術的に実現が難しくなるとされるほか、高炉法と異なり生産性に課題が残るとも指摘される。

 アジア圏では韓ポスコも水素還元製鉄の技術開発プロジェクトを打ち出している。独自の製鉄プロセス「FINEX(ファイネックス)」で鉄鉱石を水素還元する計画とみられる。

COURSE(コース)50とは

 製鉄過程で生じる二酸化炭素(CO2)排出の抜本削減に向け革新技術の開発を目指す長期の国家プロジェクト。(1)水素還元製鉄法(2)高炉ガスからのCO2分離・回収技術―が2本柱だ。

 CO2貯留に関するインフラ整備と実機化の経済合理性が確保されることが前提だが、現状の高炉法と比べ30%のCO2排出削減が目標。水素還元製鉄法で10%減、CO2分離・回収技術で20%減を目指す。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けて日本鉄鋼連盟、新日鉄住金、JFEスチール、神戸製鋼所、日新製鋼、新日鉄住金エンジニアリングの1団体・民間企業5社が参画し、現在は第1フェーズ(2008~17年度)で基盤技術開発を終えた段階。水素還元製鉄法は30年をめどに1号機の実機化を目指している。

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