前回の記事(「世界最先端理論」がなでしこに!日本代表FW千葉園子とアルビオンの「革命」)で特集したASハリマアルビオン。
彼女たちが25日のプレナスなでしこリーグ2部第2節でニッパツ横浜FCシーガルズと対戦した。まずはその結果を紹介したい。
ASハリマアルビオン 0-5 ニッパツ横浜FCシーガルズ
試合の入りは悪くなかった。むしろ良かった。今季から取り組んでいるポゼッションサッカーを体現しようと、後方でパスを繋ぎながら攻撃の糸口を探り、決定機も作っていた。
それでも結果的には、0-5の大敗。無敗優勝を目指したチームスローガン『絶対負けない』は、観客1500人以上を集めたホーム開幕戦で無残にも消えてしまった。
ただ、現在のASハリマアルビオンは改革真最中。実戦を通した試行錯誤の中で始まるポジション争いには、新たなスタイルに合ったタイプの選手が台頭してくる可能性もある。全てはここから始まる!
先制の機会を逃し、攻守の歯車が大きく狂う
21日に行われたプレナスなでしこリーグ2部開幕戦を振り返ろう。
3年連続で2部・7位に終わっているASハリマアルビオンは、敵地で昨季リーグ最少失点を武器に4位へと躍進したオルカ鴨川FCと対戦。
悪天候の中で前半こそ苦しんだものの、70分に今季から攻撃時にはトップ下、守備時にはボランチという新たな役割とポジションを与えられているFW千葉園子が貴重な先制点を決めた。
千葉が「開幕戦でこんなに気持ちよく勝ったこと今までにあったっけ?」と言うほど、良い流れのまま追加点も奪ったハリマ。今季の昇格候補に挙げられるオルカを、敵地で0-3と破る快勝で開幕戦をモノにした。
ホーム開幕戦で迎えた相手は、ニッパツ横浜FCシーガルズ。中3日のハリマに対して、シーガルズは雪の影響で開幕戦が中止となっていたため、この試合が今季の“開幕”となる。
試合は序盤からホームのハリマがボールを支配。DFラインの4人と、攻撃時は<4-1-3-2>の布陣の“1”を務めるアンカーのMF小池快、必要とあればGK切畑琴乃も加えた後方の6人でポゼッションを確立する。その上で相手の4バックに対して2トップ+両サイドMFの4人が最前線で張って攻撃に幅を確保。そこにタイミングをずらしてトップ下の千葉が裏抜けを狙う。
リスキーな戦い方だが、印象的だったのは昨季まで味方のダブルボランチに後方をプロテクトされて自由を与えられていたFW葛馬史奈。右サイドMFとして起用され、チームがボール保持時は最前線まで駆け上がって攻撃の幅を作ったり、独特のリズムを持つドリブルでチャンスメイク。また、相手ボールになっても懸命にプレスバックに戻ったり、自らのインターセプトで攻守の切り替えを先導。その“変身”ぶりは別人にも見えた。
しかし、チームは決定機を決めきれず。
逆に相手のシンプルな攻撃に対して一瞬反応が遅れて対応した16分、自陣ペナルティエリア内でファウルをとられてPKを献上。今季よりシーガルズの新主将となったMF加賀孝子に冷静に決められて先制を許す。
さらに27分には左サイドからのクロスに対して、少し後ろに引きながらフリーとなったシーガルズのFW大滝麻未が華麗な左足ボレーを放つ。彼女が豪快にネットを揺らした。
「日本代表」の個人能力が、システムを崩壊させた
2点リードとなったシーガルズは守備ブロックをかなり後方に置いて試合を運び始めたため、いくらハリマがボールを支配しても相手が奪いに来ない状態だった。
その上、海外経験も豊富な元日本代表がシーガルズの前線にいたことが、昨季まで主力を担っていたCBコンビが退団しているハリマにとって大きな脅威となった。
それは、今季からなでしこリーグに復帰したFW大滝麻未(上記写真・右)だ。
背番号30を着ける身長172cmの長身ストライカーは、中学・高校時代を過ごした古巣で「再デビュー」。高さや球際の強さはもちろん、前線からのアグレッシヴなプレスでもチームを引っ張った。
ボールの位置に対してゾーン守備のラインとブロックを作るシーガルズは、オーソドックスな<4-4-2>の布陣を敷く。そのため、攻撃へ切り替わった際は2トップにロングボールを当てることが多い。そんなシンプルな“縦ポン”が有効策となるほど大滝の存在感は大きい。その姿はまるで外国籍FWのような迫力を醸し出していた。
2点目の華麗な左足ボレーだけではない。2点をリードした後は、味方が後方に引いて前線が数的不利となっても、全く苦にせずにボールを収め続けた。後半になって攻撃のカードを次々と切ったハリマをよそに、彼女の存在が効果的なカウンターを導く。
それが追加点をもたらし続け、結果的には0-5の大差がつく試合となった。
ボールを支配するサッカーへの転換に「改革中」のハリマにとっては、相手に先制されると厳しい。とはいえ、ここで守備を重視してしまうと何の意味もない。
幸いにも、なでしこジャパンが来年の女子W杯フランス大会の出場権を懸けたアジアカップに参戦するため、ここからリーグは約1カ月中断。新たに『プレナスなでしこリーグカップ2部』が開幕する。
実戦を通して出た課題を修正しつつ、ブレずに新たなスタイルに取り組んでもらいたい。
ポゼッションサッカーは「アンチテーゼ」から生まれた
ポゼッションサッカーの代名詞と言えば、スペインのFCバルセロナ。彼等がなぜその方法論を用い始めたのか?それは30年ほど前に遡る。
当時のバルセロナを率いていたのはヨハン・クライフ。彼の現役当時のオランダ代表やアヤックスが体現した「トータル・フットボール」をバルセロナへ移植した。それがボールポゼッションを軸に据えた「ドリームチーム」で、現在のバルセロナのルーツとなっている。
その過程には、それまでマンツーマン一辺倒だったサッカー界にゾーン守備を導入したアリゴ・サッキ監督、そして彼が率いたACミランの存在があった。
「ゾーンプレス」と呼ばれる戦術で、高い位置でボールを奪うことがチャンスであるという考え方である。練習では「バックパス禁止」が義務付けられていた。自陣で奪われるぐらいなら、前に蹴って押し上げた方が良いという考えだった。DFラインを押し上げてコンパクトな陣形を作り、中盤にスペースを作らない戦い方。
戦術コンセプトがシンプルで、ボール支配を厭わないので選手の力量が問われない。そのため、多くのチームがこれを導入し始めたのだ。
そして、そのゾーンプレスに対抗すべく、ゾーンの隙間=相手選手の“間”でパスを受けて打開していこう…というのが、バルセロナ流のポゼッションサッカーだったわけだ。
ただ、ポゼッションサッカーにはタレントが必須とされるが、当然ながら女子サッカーにそれを求めるわけにはいかない。
むしろ、ここはリーガエスパニョーラでバルセロナが5年ぶりにボール支配率で上回られたことで話題となり、“カミカゼ”と呼ばれたパコ・ヘメス監督時代(2012~2016年)のラージョ・バジェカーノを目指して欲しい。
当時のラージョはリーガ最貧クラブで最多失点を喫するチームでありながら、「このチームでプレーしたい」という若き才能が集まるチームになっていた。
今季のハリマにもDF須永愛海、岡倉海香、MF吉武愛美、FW本多由佳など、なでしこ1部で出番に恵まれずとも、ポテンシャルは確かな選手が大勢新加入した。彼女たちや千葉、葛馬、FW内田美鈴のような個の能力の高い選手を活かすためにも、まずは脆さの課題が出尽くすぐらい、拘ったサッカーをしてもらいたい。
そして、この記事をご覧になっている読者の方にも、ぜひハリマアルビオンの「改革」を目にして欲しい!
ASハリマアルビオン、4月は関西で3試合!ぜひ会場へ
≪プレナスなでしこリーグカップ2部:グループB≫
→なでしこ2部クラブを地域別に2組に分け、ホーム&アウェイ総当たり2回戦のグループリーグ首位同士が7/21or7/22に決勝戦を戦う!
第1節、4/1 (日)13:00K.O. ハリマ vs 湯郷ベル@ウインク
第2節、4/8 (日)13:00K.O. ハリマ vs 愛媛L@ウインク
第4節、4/21 (土)14:00K.O. バニーズ vs ハリマ@太陽が丘
筆者名:hirobrown
創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。
Twitter: @hirobrownmiki