第5部「自問」(5) 「完璧な親なんていない」 社会全体で支える

 東京・霞が関の厚生労働省。2013~17年に社会・援護局の課長補佐として、ひきこもりの家族支援に携わった日野徹(48)は「あの時と同じだと思った」と振り返る。「あの時」とは、日野自身も担当した認知症の問題を指す。

 高齢の親を抱え、世間の目を気にしながら孤立していた人たちが1980年に家族会を結成。粘り強い働き掛けによって、社会全体で取り組むべきだとの認識が徐々に広まり、介護保険制度の創設(00年)に結実した。

 日野は、上司の荒川英雄(故人)と「(認知症の時のように)ひきこもりの実態をオープンにして、社会の偏見を払拭する一助になりたい」と決意。「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の学習会などに熱心に通い、耳を傾けた。本人の意思を尊重し、さまざまな生き方の選択肢を用意する―。国が目指す施策は、日野たちを含めた多くの人の、思いの延長線上にある。

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 16年にKHJの共同代表となった伊藤正俊(65)は、全国の支部を回るうちに危機感を覚えるようになった。国の支援や社会の理解は進みつつあるのに、親の立ち位置がいつまでも変わらないのだ。

 「うちの子がひきこもりになったのは自分のせいだ」「どうやって解決方法を見つければよいのか分からない」。同じ悩みを持つ人たちが集まることで気持ちは軽くなるが、動けない子を見ると、希望を見いだせずにまた落ち込む。まるで暗いトンネルの中にいるような感覚だろう。

 伊藤はひきこもりの背景に、親の関わり方だけでなく時代の変化をみる。「この国は経済成長で豊かになった。住環境が整い、情報も手軽に入手できる。そうした自己完結型の生活が、人間同士の関わりを失わせた」

 伊藤は山形県米沢市で運営する「から・ころセンター」を家族らの居場所だけでなく、地域に開かれた空間にしたいと考えている。誰もが気軽に立ち寄れるカフェを作ったり、障害があっても働ける場所を増やしたり。そうすれば、親子で行き詰まっていても、第三者が手を差し伸べることができる。

 「完璧な親なんて、1人もいない。だからこそ、お互いに足りないところを補い、支え合うんです」(敬称略)

「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」共同代表の伊藤正俊は、家族の居場所を地域に開かれた空間にしたいと考えている。親子が行き詰まった時、第三者が手を差しのべてくれるからだ=2月、東京都内

 

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