第5部「自問」(7) 元気なうちに対処を 深刻な「8050問題」

 不登校の延長で、若者特有の現象とされてきたひきこもり。近年は長期化、高年齢化が進み、国は2018年度から40~59歳を対象にした初めての実態調査に乗り出す。
 
 支援の現場では80代の親と50代の子を意味する「8050(はちまるごーまる)問題」という言葉も生まれ、親子の困窮、共倒れを防ぐための模索が始まっている。
 
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 17年7月、一般社団法人「OSDよりそいネットワーク」(東京)が設立された。「親が(O)死んだら(S)どうしよう(D)」。臨床心理士で、長年ひきこもり問題に関わる理事長池田佳世(80)は「悩み苦しむ全国の親たちの言葉だ」と語る。

 メンバーには社会福祉士や不動産コンサルタント、税理士らが名を連ねる。「子の住まいをどうするか」「何とか働いてほしい」「自分で金銭管理しながら生きていけるだろうか」など、さまざまな悩みに専門職が連携し、解決を図る。

 池田は親たちに「元気なうち、手遅れになる前に対処を」と呼び掛ける。社会支援につなげられないまま亡くなれば、子は1人取り残される。だが頭では理解していても、体力が衰え始めたり、子を刺激したくないと考えたりして、行動を起こせないことが多い。

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 OSDを発案したのは、名古屋市で生活困窮者自立支援の相談員を務める社会福祉士の鈴木美登里(62)。ひきこもりのケースにも20年近く携わり、親の財産を使い果たして孤独死する子などを見てきた。誰にも助けを求められず「100歳まで生きる」と言い張る親もいた。

 ひきこもり支援の現場では「そっと見守る」という考えが主流だったが、鈴木は「個人の問題として一面的に捉えられ、社会の対策が遅れた」と危機感を抱く。

 右肩上がりの経済成長を経験した世代は「分厚い中間層」を形成し、多くは子がひきこもっていても養う余裕があった。その後はバブル崩壊やリーマン・ショック後の就職難、非正規雇用の拡大により二極化が進む。子に残せるだけの資産を持たず、困窮する事例が急増するだろう。

 「恐ろしい時代がやって来る」。鈴木はOSDのような取り組みのほか、保健や福祉などの行政機関、家族会が連携する仕組みの構築が急務だと考えている。(敬称略)

「OSDよりそいネットワーク」の講演会であいさつする池田佳世。ひきこもりの長期・高年齢化が進み、「8050問題」への対処が急務となっている=2月、東京都内

 

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