『ラブレス』 何を見せ、何を見せないかのチョイスが素晴らしい

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 ロシアの格差社会を背景に家族の崩壊を描き続ける鬼才ズビャギンツェフ。これがまだ長編5作目なのに、揺るぎない巨匠の風格が漂う。それは、音楽も含め大仰な演出によるところが大きいのだが、一家族にスポットを当てたミニマムな世界観とは、本来は相容れないはず。前作『裁かれるは善人のみ』では、そこに土地開発をめぐる政治や教会の腐敗という社会問題を盛り込み、哲学的な奥行きを持たせることで、絶妙にバランスを取っていた。だが、今回は再び一家族、それも12歳の息子がいるだけの夫婦に絞った話だ。

 一流企業で働く夫と美容サロンを経営する妻。離婚協議中の二人にはそれぞれ別のパートナーがいて、懐かない息子の親権を押し付け合っていた。そんな両親の言い争いを聞いてしまった息子が、ある日行方不明になり…。主人公はあくまでも夫婦の方だが、語り口やカメラワークを駆使して我々観客を息子の視点へと誘導する手腕が見事なため、見ていて胸が張り裂けそうになる。

 その意味では、異化効果による社会メッセージの提示は本作でもなされているわけだが、それ以上に今回は、大仰な演出が生む重厚さを詩情によって中和させているところにズビャギンツェフの進化が感じられる。とりわけ、何を見せ、何を見せないかのチョイスが素晴らしく、ラストに得も言われぬ余韻が残る。前作に全く引けを取らない傑作である。★★★★★(外山真也)

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

出演:マルヤーナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン

4月7日(土)から全国公開

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