印エッサール買収「三つ巴」 再入札でJSW、ベダンタも参戦

 インド鉄鋼大手、エッサール・スチールをめぐる買収合戦が「三つ巴」の様相になってきた。2日に行われた再入札では、新日鉄住金と組むアルセロール・ミッタル(AM)のほか、印資源会社のベダンタ・リソーシズ、そして印高炉大手のJSWスチールと組み直した投資ファンドのニューメタル・モーリシャスが応札したもよう。力ある地場企業が新たに「参戦」したことで、AM・新日鉄住金連合が落札できるハードルは高まったと言えそうだ。

 エッサールの売却先を選定する入札は2月12日に締め切られ、この時点ではAMとニューメタル・モーリシャスの2社のみが参加していた。AMと新日鉄住金は3月2日にエッサールを買収できた際は合弁会社を設け共同経営することで合意し、事実上の連合を組んでいる。

 ニューメタルはタックスヘイブンのモーリシャスで登記されたファンドだが、実態はロシアの大手金融機関、VTBグループの別働隊とされる。ニューメタルは当初、エッサールの創業家であるルイア家と組んでいた。

 しかし先月下旬にAMは過剰債務を抱えるウッタム・ガルバ・スチールスの少数株売却が完了していないこと、ニューメタルは経営破綻の原因を招いたエッサール創業家と組んでいることが入札資格として問題があると指摘が入った。そのため今月2日に再入札が実施され、この際にエッサールへのEOI(関心表明書)を提出していた7社に限り参加が認められたことから入札者の顔ぶれが変わることになった。

AM「我々はインドがルーツ」/進藤新日鉄住金社長「自国産化へ貢献」

 再入札ではAM・新日鉄住金連合のスキームに変化はないが、ニューメタルは創業家に代わりEOIを出していないため単独では入札ができないJSWスチールを引き込む新連合を形成。JSWはタタ製鉄とブーシャン・スチールの再建スポンサーの座をめぐり競っていたが破れ、返す刀でエッサールへ参戦してきた格好だ。奇しくもJSWでは元AMの最高幹部で、後にエッサール・スチールへCEOとして迎えられたマレー・ムカジ氏が取締役を務めている。

 さらに資源会社ながら印エレクトロスチール・スチールス(年産能力220万トン)の再建スポンサーに選ばれたばかりのベダンタがエッサールでも新たに手を挙げたようだ。

 競合相手が増えた形になるAM、新日鉄住金は2日夜に共同声明を発表した。ラクシュミ・ミッタル会長兼CEOは「(エッサールの製鉄所である)ハズィラのボトルネックを解消するには(AMや新日鉄住金の)専門的な技術が必要だ」とし「我々のルーツはインド。印政府は鉄鋼年産3億トンを計画しており、インドの発展に貢献できるなら光栄だ」と主張。進藤孝生社長も「本件は日印関係を強化する日本政府の方針と合致したもの。当社は長年にわたり海外で製鉄業の自国産化へ貢献してきており、AMと共にメイク・イン・インディア政策の一助になり得ると確信している」と表明した。

 エッサールの経営が傾いた最大の要因は、高炉以外の上工程として手を出した直接還元鉄(DRI)プラントで当てにしていた安価な天然ガスが調達できなかったため。これを解決・再建できるだけの力ある会社をスポンサーに迎えることが債権回収にもつながる。銀行団は3つの選択肢からどこを選ぶのか。月内にも判定は下る。(黒澤 広之)

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