【片言隻句】ご破算で願いましては…

 「計算が合わないな…」と、ある鉄鋼メーカー関係者がつぶやく。自動車の生産台数と鋼材使用量の関係。「クルマ1台当たりの使用原単位から算出した需要予想に比べ、注文量が多すぎる」のだという。何故か。さらに計算機のキーを叩く。やはり首をかしげる。

 もしや、原単位が間違っているのか。あるいは、顧客が厳しい供給事情を背景に多めに発注しているのか。とすれば、後々その歪が需給バランスに表れないとも限らない。

 考えてみれば「モータリゼーション」華やかなりし昭和40~50年代、車の重量は今よりかなり軽かった。ウインドーもミラーも手動、カーナビなんてない。ステアリングは重く、キャブレーションも機械式。それでも全然困らなかった。

 電動化した装備は変えずに軽量化・省燃費を目指すのだから、当然フレームやボディにしわが寄る。どこか奇妙な感じもするが、当節のドライバーのニーズだろう。

 しばらく資料を見て考えていた同氏が「なるほどな」と笑みを浮かべる。「海外生産向けの部品生産が堅調で増えている。これですね」。

 為替レートは、数年前に比べやや円高に推移しているが、かつてのような超円高ではない。現地調達は徐々に進んではいるが、特殊鋼製品などを中心に「やはり日本製」とばかりに国内調達は根強い。さまざまな原因で、現地化はそう簡単ではない部分があるのだろう。

 「4月以降は少し生産調整の動きが出て量が落ちるのかな、と思ったら落ちない。嬉しい誤算ともいえますが、現場の人手不足や超フル操業の継続とあって、デリバリー、安全、品質管理といろいろな面で緊張した状態が続きそう」と。その恩恵が、中小も含めた業界全体に広がってくるのはいつか。

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