第11回:BCPを"賞味期限切れ"にしないために(適用事例5) 環境の変化に合わせて見直しを

食べ物と同じくBCPも鮮度が大事です(出典:写真AC)

■"変化"は避けられません

「 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶ うたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」。平安末期から鎌倉時代にかけて生きた歌人で随筆家の鴨長明さんは、有名な「方丈記」の出だしでこのように書いています。

世の中にはいつまでも同じ状態でいられるものなど一つとしてありません。常に「変化」にさらされているからです。BCP(事業継続計画)などの危機管理計画も同じでしょう。何か月も議論を重ね、やっと完成する。これで重荷から解放されたと思っていると、1年、2年と瞬く間に月日が経ち、BCPのことはどんどん忘れ去られていく。「変化」=「忘却」と言ってもよいくらいです。

ある日、書類整理などをしていると、ひょっこり埃をかぶったBCPが見つかる。「おや、こんなところにいつぞやのBCPが」。開いてみるとそこには、すでに会社にはいない危機対策本部メンバーの名前が。BCPに付随する重要顧客リストなども、すでに取引のなくなった会社や、見たことも聞いたこともない会社が名を連ねている。「だいぶ古くなってしまったなあ…」などとつぶやいている時に限って、ドカンと大きな地震に見舞われたりするのです。

BCPは食べ物と一緒です。放っておけば鮮度や品質が落ちます。賞味期限すなわち「見直しや更新の期限」があるのです。そこで今回は、BCP文書の中でもわりと変化のはげしい項目に焦点を当て、この「見直し」という活動もしくは業務を定着させるためのPDCAを考えてみたいと思います。

■変化の早い項目を中心に考えよう

先ほど述べた「BCP文書の中でもわりと変化のはげしい項目」とは、少なくとも年に1~数回は発生し得る、更新頻度の高い情報のことです。例えば次のようなものが当てはまるでしょう。

一つは「緊急対策本部メンバーリスト」です。非常時に集まる緊急対策本部(災害対策本部とも言う)の顔ぶれ、しっかり確認しておきましょう。人事異動で役職が変わったり、退職や転勤などで対策本部のメンバーから外れたりする確率は決して低くはありません。会社の人材は限られていますから、彼ら彼女らを最大限活用しようとすれば、いつ何時社長命令が出てポジションを変わることになるかもしれない。いざ参集を要請したら、肝心のメンバーがそろわなかった、などということも起こり得るわけです。

もう一つはBCPに添付する補助ツール。「安否確認シート/社員名簿」や「重要顧客・取引先リスト」がこれに当たります。これも理由は先ほど同じです。安否確認シートに記載されている特定の従業員数名から一向に安否連絡が来ないと思ったら、もうずっと前に辞めていた、なんてことも。また、顧客や取引先のリストが古いままだったらどうなるでしょうか。災害の影響で、予定していた納期が大幅に遅れることを相手先に連絡したくても、肝心の電話番号や担当窓口が分からなかったら、悔やんでも悔やみきれません。

よって、ひとまずこの3種類のリストをなるべくタイムリーに見直して、常に最新の情報を維持するように心がけたいところです。よってPDCAの目標は、次のようになるでしょう。

【目標】「BCPを最新の状態で維持できるように、定期的な見直しの仕組みを確立すること」

■更新情報を握っている部門はどこか?

「Plan」のステップには、目標と並ぶもう一つの大きな柱があります。目標の「達成方法」です。BCP文書の策定に関わった人たちと話し合ってみると、アイデア出しもはかどるでしょう。ここでは、「特定の情報ソースを管理する部署から定期的に更新情報をもらうように声をかけておく」という方法をとることにします。

例えば、総務人事部門は社員名簿を管理していますから、社員の異動や退社、新規入社、長期休養者などがあれば、それをタイムリーに教えてもらいます。あらかじめ当部門にBCP上に記載されているリスト(「緊急対策本部メンバーリスト」や「安否確認シート/社員名簿」など)のコピーを渡して、その重要性を説明しておけば、協力が得られやすいでしょう。もっとも、BCPを管理する事務局自体、総務部門が担っていることが少なくありませんから、灯台下暗しというべきでしょうか。

一方、重要な顧客や取引先については、営業部門や仕入部門などに声をかけることになりますが、もしビジネスの相手が非常にたくさんある場合には、事前の下ごしらえが必要でしょう。災害時に納期調整や注文のキャンセルなど緊急連絡のやり取りをしなければならない重要な会社を対象に、プラオリティを割り振り、優先度の高い順にランク付けをするわけです。

その上で、例えば「重要顧客」に関しては重要顧客の新規獲得や消失に関する情報がないかどうかをタイムリーに教えてもらうように依頼します。原材料や商品・製品の仕入を担当する部署に対しても同様の措置を講じます。

また、毎月の経営会議や全体会議で「更新情報の有無」を出席者に問いかけるという、より簡便な方法もあります。忘れないように会議のアジェンダに含めておきましょう。出席者のほとんどは中間管理職以上ですから、自部門のことで変更があればすぐに分かるものと思います。

■さてActの判定はどうなる?

今回のテーマは、目標と達成方法が決まりさえすれば、比較的容易に実行(=「Do」)できるシンプルなものです。ただしPDCAの「Check」を行うためには、1年程度のサイクルを見込んでおかなければなりません。その上で、各部門に協力を要請する前と後での更新情報の集まり具合とそのBCPへの反映度合いなどを「達成指標」とみなして確認するとよいでしょう。

1年後に「Check」を通じてBCP文書類のターゲットとなる記載情報が適切に管理され、最新の状態に維持されていれば、当面は目標が達成できたものとして今回のやり方を標準的な手順に組み込めば、一件落着です。もしうまく行かなければ、改善の余地ありとみなして、再度「Plan」を組み立てるという流れになります。

なお、ここでは人事情報や顧客情報を主な「見直しの項目」の対象としましたが、念のため次の項目についても少し触れておきましょう。

(1)「初動対応手順」の見直しはしなくてよいのか?
火災や地震への対処手順は適切かといったことは、見直しというよりも演習や訓練を通じて、その妥当性や問題点を洗い出しましょう。さまざまなパターンを想定して実施してみてください。

(2)経営方針や組織の刷新でBCPの守備範囲が大幅に変わってしまった
社長の交代や経済環境への対応のために会社の経営方針(または事業方針)が変わることがあります。この場合は部分ではなく、BCP全体の見直しとなります。さまざまな変更要件を検討しなければなりませんが、これについては最後の回で述べたいと思います。

(了)

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