目線はどっち

 例えば会社の売り上げの推移でもいい。日本の人口の増減でもいい。棒グラフ、折れ線グラフで表すときは左に過去を置き、右になるほど今に近くなる。どういう仕組みなんだか、私たちの頭の中でも似たようなことが起こるらしい▲小紙「歳々元気」欄で医学ジャーナリストの南雲つぐみさんが前に紹介していた。人は未来を想像し、仮説を立てるときは右上を見て、過去を思い出すときは左下を見る、そんな傾向があるという▲「昨日どこにいたの?」と聞いたとする。相手の目線が左下に向けば、昨日の記憶をたどっている。右上ならば、その答えは想像の産物-うそ、つじつま合わせかもしれない、と▲昨年、防衛省は「ない」と断言したらしいが、目線の向きはどうだったろう。陸上自衛隊のイラク派遣を巡り、なかったはずの日報が実はあった。奇妙なことに、南スーダン派遣の日報隠蔽(いんぺい)問題と相似形をなす▲イラク派遣の日報は昨年3月に確認されていたのに、当時の防衛相には知らされていなかった。国の機関の「文書管理」に、ほぼ漏れなく「ずさんな」の一語が乗っかる昨今だが、もはや「ずさん」の域を超えている▲左下を見て過去を明らかにし、右上にはこれから進むべき、正しい未来を見定める時だろう。つじつま合わせの右上目線は封印して。(徹)

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