【高校野球】大阪桐蔭・根尾は野球と勉学の“二刀流”で唯一無二に 名将の選抜総括

第90回記念選抜高校野球は大阪桐蔭が史上3校目の春連覇を達成

比屋根氏「メジャーリーガーには医師や学者の資格を取る選手もいる」

 第90回記念選抜高校野球は大阪桐蔭が史上3校目の春連覇を達成し幕を閉じた。前評判通りの実力を見せた大阪桐蔭、リードされても何度も追いつき強打復活を印象付けた智弁和歌山など見るものに感動を与える好ゲームが多い大会だった。沖縄・興南高校で春夏通算6度の甲子園出場を果たし、京都大学などでも監督を務めた比屋根吉信氏(66)に今大会を総括してもらった。

——————————————

 記念大会に相応しいドラマチックな試合が多く素晴らしい大会となった。大量点をひっくり返す劇的な試合に、サヨナラホームラン、息詰まる投手戦など非常に見所があり高校野球の素晴らしさを改めて見せてくれた。前評判の高かったチームが順調に勝ち上がり多数の好ゲームが生まれた。

 そして史上3校目の春連覇を果たした大阪桐蔭は走攻守で隙の無い野球を見せた。勝つ野球、負けない野球を体現した。本格派、技巧派、強打、緻密なチームなど、どんな相手と戦っても対応する大人のチームだ。高校野球でこれほどの完成されたチームはそう現れない。

 このチームを指揮した西谷監督の勿論、卓越した指導力は素晴らしが、それを支えた有友部長はじめスタッフ陣も評価されるべきだ。高校野球は教育の一環だ。監督一人が年中チームを見ることはできない。彼はまさしく西谷監督の右腕といってもいいほど素晴らしい人材だ。

 一貫性のある指導方針をスタッフが理解し監督がいない状況でも実行できる。西谷監督、選手、部長、コーチ陣も含め全員で掴んだ全国制覇といえるだろう。

 今大会は好投手、好野手が多くみられたが一つだけ気になった点がある。それは投手、野手にもいえるが「踏み出す足」だ。着地する足が動くため、うまく体重移動ができずバランスを崩す場面が多く見られた。いい選手は踏み出す足が動かず軸がブレない。スムーズな体重移動ができることで自分の持つ力を十二分に発揮できるはずだ。

 この原因の一つはランニングフォームだ。足腰を強くし、スタミナをつけるためにランニングを行うが、間違った走法を続けると変な癖がつきバランスを崩す要因になる。もう一度、理にかなったフォームを考える必要があるだろう。

野球、勉学も一流の大阪桐蔭・根尾には唯一無二のプレーヤーとして期待

 そして、これは私見になるがまだ、夏があり今大会で一番の注目を浴びた大阪桐蔭の根尾には誰もが成し遂げなかった選手になってほしい。投手、野手をこなし野球センス、技術、野球脳と全てが揃っており、それだけでなく勉学も一流だ。頭の回転も早くコメント力も素晴らしい。甲子園で優勝しドラフト1位でプロに入る……。このレベルで終わる選手ではない気がするのだ。

 メジャーリーガーの中には医師、学者の資格を取るプレーヤーも存在している。根尾が仮に大学に進学するとなれば難関国立大学で強豪私学を相手にプレーする姿が見たいのは私だけだろうか。これだけファンをドキドキ、ワクワクさせる選手はそういない、野球だけでなく誰もが憧れるこれまでに無かった存在になってほしい。

 そして生徒たちには「甲子園の選手」で終わるのではなく、「甲子園からの人間」として成長していってほしい。甲子園はあくまで場所であり、通過点でしかないのだから。出場するのが全てではなく、出場しなかった選手たちも含め野球人として成長してほしい。

 最後に、今大会は地域差が少なく全国の高校野球ファンが楽しめた素晴らしい大会となった。だが、選抜される実力がなかったとはいえ地元・兵庫から出場ゼロだったのは寂しい限りだ。100回大会を迎える夏の甲子園に向けた戦いはすでに始まっている。次はどのような試合を見せてくれるか楽しみにしながら、ペンを置く。

〇比屋根吉信 (ひやね・よしのぶ)

1951年9月19日、兵庫県尼崎市出身。66歳。報徳学園高から大阪体育大に進学。卒業後は西濃運輸で日本選手権にも出場。1976年に沖縄・興南高の監督に就任。仲田幸司、デニー友利ら多くのプロ野球選手を輩出。監督生活10年間で春夏通算6度、甲子園に導き1980年の選手権大会ではベスト8入りするなど同校を強豪校に作り上げた。その後は社会人野球・阿部企業、熊本・有明高の監督を務める。2010年から12年まで関西学生野球リーグの京都大学の監督を務め、田中英祐(元ロッテ)を育てた。現在は株式会社「カワイチ」で相談役を務めながら講演、野球指導を展開中。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

© 株式会社Creative2