何かの縁を

 大学生の頃、読んでみろよ、と人に勧められて出会った本がある。谷川俊太郎さんの詩集で「みみをすます」(福音館書店)という。装丁も美しい。今も折に触れては一節が浮かぶ▲例えば、一つの考えにとらわれてしまい、ああ、人の話に耳を傾けなかったな、と思うときにはこの一節。〈ひとつのおとに/ひとつのこえに/みみをすますことが/もうひとつのおとに/もうひとつのこえに/みみをふさぐことに/ならないように〉▲特に読書家でもない身で言うのも口幅ったいが、人と人だけでなく、人と本も何らかの縁で結ばれて、まれに一生の付き合いが生まれることもあるらしい。「読んでみろよ」の一言がなかりせば、と今にして思う▲だからこそ、今の「本離れ」は由々しき事態-と嘆いてみせるつもりはないが、自分から縁を遠ざけているようで「もったいない」と感じてはいる。1日の読書時間が「ゼロ」と答えた大学生が初めて半数を超えた、という調査結果が先日の紙面にあった▲入学前から読書の習慣を持たない学生が増えたためとみられる。何かの縁で結ばれようにも、本と出会う機会が乏しいらしい▲大学生になりたての人もいる。一生の友にもなり得る1冊を携えるのもいいかもしれない。出会いの春とは、きっと人に限ったことではない。(徹)

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