都心の築堤、架道橋、ディーゼル機関車

 総武線亀戸駅あたりから江東区を南下していく「越中島貨物線」は何回か

遂に遭遇したディーゼル機関車

このコラムで書いてきた。都心を南北に貫く現役の貨物専用線で単線、非電化というのどかさが沿線の街並みにしっかり溶け込んでいる。

 運ぶのはもっぱらロングレールで、1日3回程度しか走らず、目にすることはほとんどない。そのくせ、区内を東西に走る葛西橋通りや永代通りなど大通りにはりっぱな踏切があり、貨物列車通過時は遮断機を閉めさせるという“貫禄”を見せつける。それでも通常は「閉まらずの踏切」状態なのだが。

 小名木川あたりまでは「築堤」という盛り土を走り、目線より上に線路がある。特に大島地区あたりは築堤が美しい。土の斜面は草に覆われ、フェンスがなければ登りたくなりそう。夕陽に照らされた下町の築堤は都心らしからぬのどかで心なごむ風景だった。

 交差する細い道路は短いガードでまたぎ、そこだけ築堤が途切れる。そのうちの一つ「庚申架道橋」をくぐってみた。ガードとか鉄橋と言わず、鉄道用語なのか「架動橋」と呼ばれている。そういえば前に紹介した、話題の山手線新駅ができるあたりをくぐる洞窟のような“低すぎるトンネル”も「高輪橋架道橋」と掲示されていたっけ。

 庚申架道橋の橋桁はりっぱな煉瓦で堅牢につくられ歴史を感じさせる。23区内でこれだけの築堤や超ミニサイズのガードのある路線はほかにあるのだろうか。

 小名木川を越え、やがて築堤がなくなり貨物線に沿って歩くと遠くから踏切の音が。まさか、と思って目を細めると橙色のディーゼル機関車が視線に入った。何回かこのあたりを歩いたが、実際に車両を見るのは初めて。筋金入りのテツならどこかで事前にダイヤを調べるだろうが、そこまでのガッツがないから出会えるはずはなかった。

(上)街に溶け込んでいるガードと築堤、(下)いかにも堅牢な煉瓦製の庚申架道橋

 それが今回は偶然機関車と遭遇したのだ。残念ながらレールを運ぶ貨車は連結されない“単機”だったが、ごう音をたてて亀戸方面に走っていく機関車に向けどきどきしながらシャッターを押した。

 機関車は「DE10」形。レールは牽引していなくても23区で唯一の非電化貨物線と言われる路線で走る機関車に出会えただけでももうけものだった。どこを見ても2020年を意識した再開発ばかりの東京都心部だけに、こんな沿線風景にはでれっと見とれてしまう。

 ☆共同通信・植村昌則

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