苦しみあがる姿を見届けること―― 元鷹・斉藤氏が考える松坂大輔への敬意

中日・松坂大輔【写真:荒川祐史】

自身も怪我に苦しんだ斉藤氏が見た1軍復帰の松坂

 松坂大輔がマウンドに帰ってきた。

 敗戦投手にはなったが、今後に期待をもたせるには十分な内容に思える。自身、同じような苦しみを味わった元ソフトバンクの斉藤和巳氏は、今の松坂をどう見ているのだろうか。

「勝ちにつなげられず、悔しさしかない」

 4月6日、ナゴヤドームでの巨人戦で、松坂はNPB復帰後の初登板を飾った。5回96球を投げて3失点で敗戦投手。試合終了後の第一声は、投手として誰もが感じる、当たり前の強い気持ちだった。3四球を与えるなど球数の多さは、以前同様の悪癖が出た形。しかしながら、ソフトバンク時代は故障により3年間で1試合の登板だったことを考えれば、大きな一歩だった。

「走者を出してもホームに帰さないことだけを考えたが、それができなかった。先頭打者を出して球数が多くなってしまったことが反省です」

 このコメントは日米を通じて何度も聞いた覚えがある。

 試合前、中日の練習を最後まで思案深げに見入っていたのが斉藤氏だった。

「ダイスケのことはやっぱり気になってしょうがない。状況などは異なるけど、僕もずっと投げられなかった。投手にとって、それが一番ツライことは言うまでもない。ダイスケは高校時代から飛び抜けていて、注目もすごかった。それがこういう状況になっている。いろいろな声も本人には聞こえているだろうしね」

 斉藤氏は06年に投手5冠を達成した大投手。沢村賞を2度獲得するなどソフトバンクの大エースとして活躍するも肩を故障。回復を目指し、最後はリハビリ担当コーチの肩書きで復帰の道を模索したが叶わなかった。ある意味、松坂の気持ちを最も推し量れる人物ではなかろうか。

「周りは何も関係ない、自分のことだけを考えればいい」

「今日できたのに次の日はまたダメになる。恐怖感もあるし、苛立ちもある。常にそれとの戦いだった。ダイスケもそういう状況だったのは見てきているからね」

「まずは投げられる、そして1軍のマウンドに立てる。今日はこれに尽きるんじゃないかな」

 低迷の続く中日の活力剤になってほしい。若手投手陣のお手本として影響を与えるはずだ。観客動員の目玉になるだろう。そして、かつての工藤公康のように捕手を育ててほしい。そんな思いが尽きない。

 中日入団にあたって、さまざまな声が聞こえてきた。しかし、斉藤氏はそれらの声を一蹴する。

「周りは何も関係ない、自分のことだけを考えればいい。それで結果が出ようが出まいが、それはその先のこと。マウンド上で自分の納得するボールを投げることを考える。それができても結果が出なければ、それはそれでユニフォームを脱ぐ時だと思う。

 大きな期待、契約でソフトバンクへ入団した。でもああいう形になって中日に拾ってもらった。その時点で昔の松坂大輔はもういないんですよ。これからマウンドに上がるのは新しい松坂大輔、ゼロからのね。そこから先どうするかは本人が自分で決めることだから。

 今までと同じ、それ以上の投球を期待するのは間違っていると思う。これから先は苦しんで、あがき続ける日々になると思う。でも、それも松坂大輔。そういう姿を見届けていくのが、これまで多くの素晴らしいものを見せてくれた彼への敬意だとも思う」

失策の京田にグータッチ、松坂が見せたエースの矜持

 巨人戦では、打ち取った打球が内野と外野の間に落ちる。内野ゴロを17年新人王の好守、京田陽介がまさかの暴投をする。うまくいきそうでいかない、ここ数年を彷彿とさせるような試合内容だった。

「久しぶりに投げる日をぶち壊してしまった」

 そう気にかける失策直後の京田を、松坂はマウンド上でグータッチでなぐさめていた。これこそがエースと呼ばれた男の矜持でなかろうか。

 150キロを超える豪速球。消えるように鋭く曲がる変化球。高校時代から「怪物」と呼ばれ、マウンド上では常に威風堂々と見えた。時には打者の厳しいところを突き、一触即発の雰囲気を作ることもあった。まさに投手らしい投手だった。

 それと同時にマウンド上では見せることのない、憎めない一面も併せ持っている。

「すみませーん、帆足くんの部屋で寝てました」

 西武時代の春季キャンプ宿舎でのこと。地元ラジオ局に生放送出演予定であったが、現れる気配がない。慌てる関係者を横目に満面の笑顔で登場した。なんとチームメート帆足和幸(現ソフトバンク打撃投手)の部屋で昼寝をしてしまったという。それまでの雰囲気が一変し、誰もが笑顔に包まれた。「またかよ、ダイスケ…」と広報担当者が胸をなでおろしていたのは言うまでもない。

 オンとオフのギャップの幅が松坂の大きな魅力である。しかし、それもマウンド上でのあの姿があってこそ、というのは見る者のわがままであろうか。

 もう1回、もう1回、何度でも松坂大輔の投球を見続けていたい。

(Full-Count編集部)

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