いかさまもの

 いかにもそうだ、と納得したとき、古くは「如何様(いかさま)」と言ったという。いかにもそうだと思わせる偽物は「如何様物」と言い、今も使われる「いかさま」は「いかさまもの」の略らしい。語源を読み解く「ことばの道草」(岩波新書)にある▲いかにもそうだと思わせて、実はまやかしだった。そんなことが度重なっては「信頼回復」の4文字も出る幕がない。政府がぐらぐら揺れている▲どれくらい残業したかを問わず、労働時間を一定とする「裁量労働制」を巡り、首相は「裁量制で働く人の労働時間は一般労働者より短いというデータもある」と言い、のちに撤回した。現代版いかさまもの、すなわち「不適切データ」だった、と▲裁量制を不動産大手が乱用し、過労自殺が起きていたが、政府はいきさつに触れようとしない。国会提出された「働き方改革」法案から裁量制の拡大は削除されたが、だからといって説明に口をつぐんで良いはずはないのに▲どうしても今国会で成立させたいが、言い募られて口を開けば審議は滞るかも-と、そんな理由で“不都合な事実”にふたをしては、不信感をわざわざ招き寄せるだけだろう▲公文書改ざんといい、イラク日報隠蔽(いんぺい)といい、「本当のこと」が姿を変えたり、隠れたり。「いかさまもの」の展示会はいつまで続く。(徹)

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