「君は一人じゃないよ」:病児の兄弟姉妹に寄り添うNPO

病気を持つ子どもの「きょうだい」の存在を、考えたことがありますか?兄弟姉妹が病気を持っていた時、そのきょうだいは不安や自責、罪悪感を感じたり、親が兄弟姉妹の看病に付きっきりになってしまうことから、嫉妬や寂しさ、孤独を感じ、自己肯定感が低いまま大人になるケースもあるといいます。大阪を拠点に、病気を持つ子どものきょうだい支援に取り組むNPOを紹介します。(JAMMIN=山本めぐみ)

■病院の廊下で、孤独に親を待つ子どもたち

「きょうだいさんがもちやすいきもち」。しぶたねが発行する『シブリングサポーター研修ワークショップテキスト』(2016年/しぶたね編集)より抜粋

小児がんや心臓病など重い病気を持つ子どものきょうだい(シブリング)のサポートを行うNPO法人「しぶたね」(大阪)。きょうだいの居場所作りのためのイベントを開催するほか、きょうだい支援を担う人を増やし、つながるための「シブリングサポーター研修ワークショップ」や講演を各地で開催しています。

代表の清田悠代(きよた・ひさよ)さん(41)は、弟を心臓病で亡くしました。清田さんが中学1年生の時に弟の病気が発覚し、彼の闘病生活を家族で支えながら、たくさんのきょうだいの孤独を目の当たりにしたといいます。

NPO法人しぶたね代表の清田悠代さん(右)。隣は、しぶたねで活躍する専属ヒーロー「たねまき戦隊シブレンジャー」の一員「シブレッド」さん

「中学生以下のきょうだいは、感染予防のために病室に入ることはできない。弟が入院していた病院の廊下で、小さなきょうだいたちがぽつんと一人ぼっちで座っている光景にとてもショックを受けた。弟が入院していた子どもの病棟の入り口はビニールのシートになっていて、子どもが入ろうと思えば入ることができた。けれど、親を待つ2、3歳ぐらいのきょうだいが『ママー、ママー』と泣き叫びながら、それでも中には入らない。自分は入ってはいけないんだということを、小さい頭で理解していた。そんな姿を見て、胸が痛んだ」

そんな光景を目の当たりにして「この子たちが安心して過ごせるケアがあれば」と思ったという清田さん。「きょうだいを支援したい」という道が決まったといいます。

■「きょうだい」の抱える思いに寄り添う

病院にきょうだいの居場所を作るための活動。病院の廊下の隅にマットを敷き、おもちゃとボランティアがきょうだいを待っている

病気を持つ子どものきょうだいの心の中には、様々な感情が渦巻いているといいます。

「『何が起こったの?』という不安や、『僕のせいでお兄ちゃんは病気になってしまったのではないか』という罪悪感、親御さんが看病に付きっきりになってしまうことに『妹ばっかりずるい』という嫉妬や怒り、『誰も私のことは見てくれない』という寂しさや孤立、そしてこれらが『私はきっと要らない子なんだ』という自己肯定感の低下につながることもある。また『病気じゃない自分が我慢しなきゃ』『もっと自分が頑張らなきゃ』というプレッシャーや将来への不安も感じている」

小さなきょうだいたちは、こういった感情を言語化して上手に伝えることもできず、一人で苦しんでいると清田さんはいいます。

「まずは周囲の人たちが、きょうだいの気持ちに気付き、きょうだいの発する言葉に隠された奥の気持ちを一緒に探すこと。それが、きょうだいにとって『愛されている』という実感につながる場合もある」

■「きょうだい」のためのイベントを開催

しぶたねは、自己肯定感が低くなりがちなきょうだいのために、きょうだいが主役になれるイベント「きょうだいの日」を、各地で開催しています。

「この日は、きょうだいたちが大人を独り占めにして、愛をシャワーのように浴びる日。主役感やスペシャル感を感じてほしいので、きょうだいの数の倍ぐらいの大人のスタッフで対応し、一緒に遊んだり、おやつを食べたりする。きょうだいたちは、いつもは病気を持つ兄弟姉妹の影に隠れて、後回しになってしまうことも多い。この日だけは『ちょっと待ってね』とは言いたくない」

「きょうだいの課題は、まず知ってもらうことが第一」と話す清田さん。課題を伝え、支援の必要性を訴えるために、講演活動のほか、きょうだいを支援する「シブリングサポーター」を増やす研修ワークショップも各地で開催し、精力的に活動しています。

■「きょうだい」に寄り添う小冊子を発行

一人で悩むきょうだいに、「一人じゃないよ」ということを伝えたい──。そんな思いから、しぶたねは2011年に小冊子『きょうだいさんのための本 たいせつなあなたへ』を発行し、これまでに17,000冊がきょうだいのもとへと旅立っていきました。

「きょうだいが寂しい時やひとりぼっちだと感じる時、親御さんや周囲のたくさんの人から注がれる愛情を、彼らが確認できるものを作りたいと思って作成した」と話す清田さん。今年の3月には、シリーズ第二弾となる『きょうだいさんのための本2 おにいちゃん、おねえちゃん、おとうと、いもうとを亡くしたあなたへ』が完成しました。この冊子について、清田さんは次のように話します。

「兄弟姉妹との死別は、きょうだいにとっても大きな壁となって立ちはだかる。死という概念がわかりづらかったり、自責感を抱えてしまう子も多い。自分や周囲の人の感情の揺れに戸惑ったり、悲しみに打ちひしがれる親を目の当たりにして自分の気持ちを後回しにしてしまったり、『自分の番はこないんだ』と一層深い孤独へと陥ってしまうこともある。大切な人を亡くし、つらいのはきょうだいも同じ。そんなつらさを一人で抱えなくていいんだよ、いろんな気持ちがあっていいんだよ──。そんなメッセージをちりばめている。この冊子を手にしたきょうだいが、つらい中でも自分のことを大切に思えるきっかけができれば」

© 株式会社オルタナ