金属行人(4月9日付)

 歴史を学びたいと思い大学では文学部史学科を志望していた。しかし入学後、古文書に書かれている昔の文字を解読するのが史学研究の中心と聞くと性分に合わないなと感じ、フィールドワークを重視する社会学へ宗旨変えした▼それから20年ほど経つが、今の新聞記事を書く仕事をしていると、史学研究のような手法も大切であることを日々思い知らされる。文書の真偽を見極め、その内容を詳しい人に確認し、裏付けとなる元データや他の文書との整合性を調べる―。古代文字で書かれていないだけ、史学研究よりは恵まれているだろう▼財務、防衛省での文書改ざん、文書隠しは、知られたくないことを誤魔化したという単純な問題ではない。現代だけでなく、未来の世代が過去を適切に検証し評価・活用するには、どれだけ「史料」として正しい文書が大事であるか。歴史に対して冒とくを働く罪深さを意識すれば、改ざんや隠蔽などそうはできない▼現在公開されている映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」はワシントン・ポストが舞台で、いみじくも文書の重みや隠蔽の問題を描いている。ちなみに新聞も後世には史料の一つとなる。業界の歴史を公正に記録できるよう、ご理解・ご協力を頂きたい。

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