「ポステコ流」を目指す上での宿命か?横浜F・マリノスが抱える「前線守備」の弱点とは

明治安田生命J1リーグ第6節、横浜F・マリノス対川崎フロンターレの「神奈川ダービー」は、1-1のドロー決着となった。

「昨季までマリノスのエースナンバーを背負っていた齋藤学がフロンターレのユニフォームを初めて身に着ける試合」という観点でも注目が集まった一戦だが、両チーム共に攻撃面に特長があるため、試合内容自体も大変見応えがあるものであった。

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とりわけ、アンジェ・ポステコグルー新監督の下、リーグ王者相手に自らのスタイルで真っ向勝負を挑んだマリノスの姿勢には惚れ惚した。

だが、その一方で、彼らが現在抱えている弱点が散見したのも事実。

それらは「ポステコ流」を志向する上では宿命とも言うべき課題とも言えるが、ここでは二回に分けて、その試合の中から抽出した代表的なシーンを取り上げて分析しこうと思う。

陥りやすい「ポジショナルプレー」の勘違い

今季のマリノスは、Jリーグでは数少ない「ポジショナルプレー」を志向するチームである。

「ポジショナルプレー」を突き詰めるとそれだけで話が終わってしまうので、このキーワードに耳慣れない方は、「ボールの位置など状況に応じて、適宜自分たちがどのようなポジションを取るべきかを考えるスタイル」とでも認識してもらえればけっこうだ。

そのため、「ポゼッションサッカー」とは全く別物であり、勘違いされやすいが、マリノスは決して「ボールを保持すること」のみに主眼を置いているわけではない。

DFラインを極端なまでに押し上げ、それによって空いた広大なスペースはゴールキーパーがポジションを上げてカバー。サイドバックは中央に絞りながらボランチのようにゲームの組み立てに参加。前線もボールの置き所に応じてポジションを微修正を行っているが、これらは「ボールを支配する時間を長くする」のではなく、「攻守において自らがゲームを支配する」ためのものであり、似て非なるものだ。

「ポジショナルプレー」については上述の通りだが、それを極めるのは容易いことではない。

このスタイルで世界の最高峰に君臨しているのが、ペップ・グアルディオラが率いるマンチェスター・シティだが、彼らのレベルに達するには一筋縄ではいかず、彼らもいくつかのハードルを乗り越えた上で築き上げてきた。

その一つが「相手の敵陣深くにボールが置かれた時のポジション(前線からの守備)」である。

シティは、遅攻だけではなく速攻においても圧倒的な破壊力を見せるが、それが実現できているのは、攻から守への切り替えの早いから、厳密に言えば、「攻撃が終わった時に各選手が正しいポジションを取り、なおかつプレッシングの強度が高いため」だ。

逆にそこが破綻すれば、一気にピンチに陥ることになるのだが、フロンターレ戦におけるマリノスはそのサンプルになりそうなシーンがいくつも見られた。

以下はその代表的な一つである。

①プレッシングにおける初期ポジション

前半9分、バックラインでCBの谷口彰悟がボールを持ち運んだ瞬間のシーンだ。

ここではRWFのオリヴィエ・ブマルが谷口に対してチェイシングを行い、DMFの扇原貴宏が相手DMFのエドゥアルド・ネットをマーク。さらに、CFWのウーゴ・ヴィエイラはもう一人のCB奈良竜樹へのパスコースを消しながら、ボールとの距離を縮めていることがわかるだろう。

いわゆるプレッシング、前線からの守備をチームで連動して行おうとしている場面だ。

そして、一見すると、ここまでは大きな問題がなく、「ハマっている」ように感じられるだろう。

②一人のズレが命取りに…

だが、実はここで問題が発生してしまうのである。

上述から一秒後、谷口は縦パスを敢行するのだが、これはまずブマルのチェイシング強度が緩かったことが一つの引き金となった。

ある程度ボール扱いが得意な選手であれば、この距離感であれば、ストレス的にはフリーの時とさほど変わらない。そのため、谷口は落ち着いてパスコースを見極めて、「クサビ」を打ち込めたのだ。

おそらく、彼には、ボールを受けに下がりながらパスコースのアドバイスを行っていた大島僚太の左手もしっかりと見えていたぐらいの余裕はあったはずだ。

しかし、それよりも気になったのが、(四角い囲み線)LFWユン・イルロクのポジションにあった。

ウーゴ・ヴィエイラが右に開いた奈良へのパスコースを切っているため、彼がここで取らなくてはいけなかった選択肢は大きく分けて二つに絞られていた。

谷口から縦に入るパスコースに入りインターセプトを狙うか、もしくは、パスの受け手候補(画面外にいる中村憲剛)との距離を詰めることである。

しかし、いずれを実行するにも中途半端なポジションを取ってしまい、結果的にこのプレッシングが完全破壊されてしまうのであった。

③キーマンが完全フリー

これは上述のポジショニングミスを利用して、谷口の縦パスが攻撃のキーマン中村に収まった瞬間であるが、まさに「完全フリー」であることがわかるだろう。

彼の後ろにいるユン・イルロクとの距離は遠く、センターサークルに位置する天野純が急いでカバーリングに走っているが、こちらも距離が空きすぎている。

そのため、中村はいとも簡単に最前線の知念慶を裏に走らせるスルーパスを放つことができた。

※この場面では使わなかったが、右サイドにいるエウシーニョもフリーであった。

最終的にはDFラインの裏を独走した知念のシュートはポストに弾かれて失点に至らなかったのだが、マリノス側からすると、まさに「やられた瞬間」であった。

さて、少し話を巻き戻すと、最低でもユン・イルロクが「中村を見れる位置」にいれば、このような状況にはならなかったのだが、そもそも人の配置にズレが起きている点も見逃せない。

本来であれば、中村のように中央をベースポジションとする選手に対しては、ボランチに配置されている天野か扇原のいずれかが見ることが正しく、今回のシーンで言えば、天野となるべきであった。

彼が中村につくことにより、左から中よりにポジションを取っていた阿部浩之をフリーにしてしまう可能性はあったが、この時の最重要危険人物は「中村>阿部」であることは明確。リスクを考えたポジショニングが取れていれば、このような状況に陥ることも防げていただろう。

また、この試合では「誰が誰を見るのか」というのが曖昧になるシーンが多かったが、とりわけ、天野、扇原、そして、トップ下に位置した大津祐樹の三人の間ではこの問題が目立った。

後半からダブルボランチから扇原のワンボランチ気味に変更し、マーク対象を明確にした対応力は見事であったが、正直、前半のうちに大量失点に陥っていた可能性はあり、今後もマリノスが抱える問題であることに変わらないはずだ。

各選手がかなり流動的なポジションを取り、ギャップを突くことに長けたフロンターレが相手だからこそ露出した課題であるとは言えるが、マリノスが目指すサッカーはこのような相手であっても「能動的に封じ込める」というものだ。そのため、チームの課題として取り組むべきテーマの一つだろう。

どうしても、「ポジショナルプレー」は攻撃時に注目が行きがちになるが、守備は攻撃と一対である。

もし、マリノスのゲームを目にする機会があれば、「守備時にも正しいポジションを取れているかどうか」にも着目してみると面白いかもしれない。

※画像は『DAZN』の許諾を得て使用しています

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