【新日鉄住金グループ企業の〝今〟(23)】〈松菱金属工業〉19年度に最新工場が稼働 CH鋼線・磨棒鋼高品質需要に対応

 松菱金属工業は新日鉄住金グループにおける特殊鋼棒線の二次加工の中核会社であり、磨棒鋼、冷間圧造用(CH)鋼線製造の国内最大手。拠点は本社・羽村工場(第一・第二工場)と君津事業所、室蘭工場の国内3拠点のほか、海外では新日鉄住金とともにタイのNSSPT、中国(蘇州)のNSCh、そして2016年に設立した米国(インディアナ州)のNSCIにもマイナーで出資し、棒線二次加工のグローバル戦略の一環を担っている。

 同社では1月、埼玉県飯能市に総額72億円超を投じて羽村第一工場に替わる新本社工場を建設し、19年度中に稼働することを発表した。赤松社長は「高度化する市場ニーズ、品質に対応するため、最新鋭設備の導入と最適生産・効率化を図り、当社の競争力をより確固たるものにする」と強調。同社で過去最大のプロジェクトのかじ取りを行う。

 磨棒鋼、CH鋼線の需要先は大半が自動車関連部品だ。自動車産業は電気自動車(EV)の普及やモジュール化など大きな変革の時期を迎えているが、今後も部品や材料のさらなるコスト低減要請は大きな流れとなっている。部品材料であるCHワイヤーに求められる品質、性能もより厳格化される見通しだ。

 同社では素材分野で新日鉄住金の技術支援を最大限に生かし、ロッド(線材)からCHワイヤー、ファスナー、ユニット(部品)までのトータルコスト、〝価格性能比〟を需要家とともに向上させて、最終ユーザーである自動車メーカーの競争力につなげる方針だ。

 新工場では最新設備を導入して、高品質化とコスト低減への対応を実践する。CHワイヤー製造の理想的な製造工程、動線レイアウトを配置。品質の低下を招くワイヤーの表面傷を防ぐため、倉庫の出荷から酸洗、熱処理、伸線機、製品の出荷までの工程を無人搬送車(AGV)のフォークレスでつなぐ。

 また最新鋭の設備として、より細微な温度調整が可能な連続焼鈍炉と自動酸洗設備を導入する。現・羽村第一工場の酸洗工程は熟練作業員の技術力に頼っている部分が多いため、蓄積されたノウハウ、技術も最新鋭の酸洗設備に落とし込む。

 また君津事業所でも酸洗設備の全面リニューアルを現在実施中だ。同事業所は新日鉄住金・君津製鉄所の隣地に位置しており、迅速かつ良品質を担保する立地性が強み。酸洗設備の更新とともに、東洋製線から移管したCH鋼線の事業、また今回の新・飯能工場の建設に伴う磨棒鋼事業の集約化を通じ、より競争力を高める在り方を模索する。

 もう一つの事業所である室蘭工場も、主要ユーザーのトヨタ自動車北海道向けの受注は順調に伸びており、新日鉄住金・室蘭製鉄所の素材を加工して製品としてトヨタ自動車北海道へ納入。道内で材料から製品までを完結するサプライチェーンの一翼を担う。

 赤松社長は「ものづくりの基本として〝安全〟を最優先課題に挙げている」と強調。「安全操業が安定操業となり、品質の安定化につながる」(同)ためだ。一つの微細な表面傷が原因で、重要保安部品に使われるCHワイヤーはリコール対象になり莫大な損害が発生するリスクも大きい。「品質を安定化させるため、軽微な労災もなくして、無災害職場を目指す」(同)。同社の82期(18年度)経営方針は『操業・収益よりも安全』を掲げる。(このシリーズは毎週水曜日に掲載します)

 企業概要

 ▽本社=東京都羽村市

 ▽資本金=4億7300万円(新日鉄住金の出資比率50・8%)

 ▽社長=赤松將雄

 ▽売上高=217億5700万円(17年3月期)

 ▽主力事業=磨棒鋼、冷間圧造用鋼線及び素形製品の製造・販売

 ▽従業員=359人(18年3月末)

© 株式会社鉄鋼新聞社