上矢部町在住の諸星流美子さん(59)がこのほど、宝城坊・日向薬師(伊勢原市)の元住職の法衣を利用したキルト作品を完成させた。同寺との縁は、亡くなった夫・勉さんの存在がきっかけ。ひと針ずつ縫い上げたこの作品は近く奉納される。
高さ2m、横幅60cmの作品は、2枚重ねた布に綿を挟む「キルティング」という手法で作られている。自宅で裁縫などを教える「お針教室」を開く諸星さんは、古い布を再利用し作品を作ることを大切にしており、今回も古い着物を用いている。
着物を再利用した下地には、縫い目によるデザインが手作業で丁寧に施されている。その上にカタカナで書かれているのは、薬師如来による「真実の言葉」などを意味する「真言」。日向薬師の元住職が着ていた法衣を切って縫い付けた。「やっとできあがった」。諸星さんは、愛おしそうに作品に触れながら語る。
経典を作品に
夫・勉さんが倒れたのは約8年前。くも膜下出血が原因だった。幸い一命をとりとめたものの、重度の障害が残った。言葉を発せない夫を不安にさせまいと、つとめて明るく介護を続けた。
また「以前から仏様に興味があった」という諸星さんは、勉さんが倒れる前から制作中だった、般若心経の文言を綴ったキルト作品を完成させた。般若心経には病気平癒の信仰があることから勉さんのベッドにかけ、回復を願った。
しかし、3年間の闘病生活ののち勉さんは帰らぬ人となる。諸星さんは、かつて病気回復を願って訪れていた日向薬師へ、般若心経のキルト作品を片手に報告のため訪問。般若心経を経典とする真言宗の同寺が目を留め、本堂で飾られたことから、交流が始まった。
現住職・内藤京介さんの祖父にあたる元住職が、使わなくなった法衣などを提供。それを活用し、これまで2つの作品を作って同寺へ納めた。内藤住職は「大切に保管していきたい」と話す。
諸星さんは「何十年も人々のためにお勤めされた方の法衣。夫がくれた縁で、作品が作れたことがうれしい」と話した。