奇跡の大逆転劇が生まれた理由?ローマが徹底的に突いたバルサ守備陣の「脆弱性」とは

10日(火)に行われたUEFAチャンピオンズリーグの準々決勝2ndレグ。

アウェイでの1stレグで1-4と落としたローマは、ホームにバルセロナを迎えたが、ラ・リーガでは首位を無敗で独走する彼らを3-0で返り討ちにし、CL史に残る「大逆転劇」にて勝ち上がりを決めた。

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はたして、この大逆転劇が生まれた要因はどこにあったのだろうか。

当然一つの事象で結論付けられるものではないが、個人的には、バルセロナ側のパフォーマンスの悪さ云々よりも、ローマ側の徹底した攻撃が大きな勝因になったと考えている。「ローマが自らのスタイルをある程度捨てながらも、バルセロナの嫌がることに終始した」と表現してもいいかもしれない。

そこで今回は、ある一つのシーンをピックアップ。そこから、奇跡の逆転勝利の裏に隠された、バルセロナ守備陣が極度に嫌がる「二つの脆弱性」について論じたいと思う。

①デ・ロッシに余裕だけを与えた守備

バルセロナの1失点目は、ダニエレ・デ・ロッシがセンターサークル付近からDFラインの背後にボールを蹴り込み、それに対応してエディン・ジェコが反応。そして、そのまま裏に抜け出し、難しい体制ながらも上手く右足で合わせたものであった。

このゴールは、当然ジェコのパワーやシュートセンスが生み出したものとも評価できるが、それ以上にバルセロナの守備の不味さが感じられる特徴的なシーンとなってしまった。

この画像は、アシスト役となったデ・ロッシがDFからボールを受け取ったシーンを切り出したものだ。

ここで注目して欲しいのは、バルセロナの最前線に位置したルイス・スアレスと中盤の4人のポジショニングである。

スアレスは明らかにボールホルダーとの距離が遠く、「何のためにそのポジションを取っているか」が完全に不明。おそらく、「スイッチオフ」の状態だったのだろう。

それ自体を言及することもできるが、スアレスのメインはあくまでも点をとることにあるため、そこに多少の目を瞑ることもチームの選択肢としては存在する。

だが、それが許されて成り立つのは、周りの選手が彼の「サボり」をカバーできている状態の時のみだ。

この場合、バルセロナのMF陣が取るべき行動としては、左サイドのアンドレス・イニエスタが自らのポジションを捨ててボールに行く。もしくは、中央のイヴァン・ラキティッチがボールに近づき、それで空いたスペースをセルヒオ・ブスケツが埋めることにあったが、いずれも実行できなかった。

そしてその結果、デ・ロッシが容易にDFラインの裏へボールを蹴るチャンスを与えてしまった。

何故このようなことが起きてしまったかは不明だが、一つ考えられる要因は後述する。

②中途半端なマークの受け渡し

前述のようにデ・ロッシがパスを送る時点で既に問題が発生していたわけだが、蹴りだした後に上手く対応できれば問題はない。

トップレベルの試合においても、中盤にポッカリとスペースが空くことは多々あり、ポジショニングのミスも当然ある。しかし、それでもなかなかゲームが崩れないのは、それらを失点に繋げないように誰かがカバーしているからだ。

つまり、ここで求められるのが、「その後の対応」にあったのだが、この失点ではそれが全くできていなかった。

デ・ロッシが背後にボールを蹴りだした瞬間、バルセロナの左SBジョルディ・アルバはジェコと並走しながら中に絞るのだが、まず、この時点でジェコにインコースを取られていることがわかるだろう。

そして、このタイミングでまた別の問題が起こった。それはCBサミュエル・ウンティティのカバーリングである。

アルバがジェコに対して(インコースを取られて)後手を踏んだ瞬間、若きフランス代表DFはマークの受け渡しを自ら率先すれば良かったのだが、彼が取った行動は「とりあえず、並走しておく」というものであった。

ジェコにボールが収まる前など、決定機を迎える前に受け渡しができるタイミングはあったのだが、最終的にどちらが最後までジェコを見るのかわからない状態となり、ローマのエースのDFラインの侵入を許されてしまったのである。

また、ボールのないところでの話ではあるが、バルセロナの中盤四人はただ中に絞った(ように見えるだけ)ポジションを取っており、両サイドのパスコースに対して「ケアなし」の状態であったことも触れておかなくてはならないポイントだ。

ボールがそこに送られることはなかったが、デ・ロッシが右サイドや左サイドに展開してもピンチを迎えていた可能性は十分にあったと言える。

「プレッシング不全」という脆弱性

さて、今回は1失点目を取り上げて言及したが、その理由は至って簡単。

この失点シーンが、今回のテーマであるバルセロナ守備陣の「脆弱性」の一つでるあるからだ。

まず、最初の画像でデ・ロッシに全くプレッシングがかかっていない状態になっていたことを示したが、これはバルセロナがピンチを迎える序章でよく見られるシーンである

エルネスト・バルベルデが監督となり、カウンターアタックの鋭さが増した印象だが、これは「プレッシングがハマり、パスコースを限定できている時」に限定しての話だ。

逆に言えば、プレッシングがかからない状態では、このように簡単に背後やスペースを突かれてピンチを迎えるというのが、今季のバルセロナの特徴である。

また、この失点シーンでは、デ・ロッシがボールを持った瞬間、中盤の誰かが自らのポジションを捨てて、ボールに対して寄せるという考えもあった。

しかしこれが実行できなかったのは、一つの理由として、「各選手との距離を10メートル以内にキープする」という基本的な約束事がチームにあったためだと思う。

このルールにより、今季のバルセロナはこれまでよりもソリッドな守備を見せることも多く、レアル・マドリーに3-0で勝利した昨年末のエル・クラシコでも非常にそれが効いていた。

だが、この効果を得るためには、前線からの効果的なプレッシングは重要だ。

逆に言えば、この機能が弱まると、守備ブロックは「ただ待ち構えているだけ」の状態となり、徐々にDFラインとの間隔も広がる。

そして、最終的には、相手チームに攻めやすい環境を与えることになるわけだ。

「マーク交換」における脆弱性

そして、第二の脆弱性が「DF陣のマークの受け渡し」、特に「サイドバックとセンターバックのマークの受け渡し」だ。

この試合におけるローマは、様々な選手が「SBとCBの間のスペースをアウトサイドからインサイドへのダイアゴナルな動きで突こう」と試みるシーンが何度も見られたが、これはきっと、この弱点を突くためであったと推察できるだろう。

とりわけ、ウンティティとアルバ、ウンティティとピケのところは、最終的に誰がマークするのかが曖昧になり、後手を踏むケースが多い。

バルセロナのセンターバックの能力は対人能力も高い(特にウンティティ)ため、ある程度は個々で何とか回避(もしくは、GKのマルク=アンドレ・テア=シュテーゲンがビッグセーブを見せる)してしまうのだが、一歩間違えると、失点に直結するものが少なくない。

そのため、一線級のストライカーが相手との試合では、ヒヤヒヤのシーンも少なくなく、「あわや」のシチュエーションも多い。

つまり、今回のローマ戦に限って、バルセロナの守備に問題が起こったわけではない。運悪く、スタディオ・オリンピコでの一戦にて如実に表れてしまったと評するのが正しいだろう。

いつもであれば誤魔化せた部分、もしくは得点力で覆い被せることができた部分が、今回は完全に露呈しまったというわけである。

とは言え、彼らの弱点は、わかっていても簡単に崩せるものではない。

ハイレベルな選手が一貫して仕掛けることでようやく実るかどうかの域である。

そういう意味では、大逆転劇を信じて愚直にそれを実行したローマのほうを褒めたたえるべきだろう。

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