0.1秒でポジションが変わる大混戦でガスリーが4位に躍進した理由/トロロッソ・ホンダF1コラム

 トロロッソ・ホンダの速さは本物だった。

 予選6番手、決勝4位。表彰台まであと一歩というそのポジションは上位勢3台のリタイアによるものだったが、大混戦の中団グループのトップを走り続け、「3強に次ぐポジション」を常に走り続けたのは紛れもない事実だった。

 トロロッソ・ホンダ自身、ここまでの速さを予想していたわけではなかった。

 開幕戦オーストラリアGPでは、実質的な速さとしては『7番目のチーム』を争うポジションだった。高速コーナーが少なくストップ&ゴーのバーレーンは低速コーナーを得意とするSTR13のキャラクターに合っているとは言え、木曜の時点ではここまでの躍進が果たせるとはドライバーたちも思ってはいなかった。

「ハースは僕らにはちょっと手が届かないくらい速いし、ルノーやマクラーレンも速い。でもフォース・インディやウイリアムズは僕らにとって確実にターゲットたり得るし、全てをきちんとまとめることができれば彼らを打ち負かすことは可能だ」

「メルボルンではそれができなかったけど、あの時のように上位で2台がリタイアすればポイント獲得のチャンスだって出てくる。そういうチャンスをしっかりと掴み取れるようにしなければいけないんだ。ストレートが多いから僕らにとっては良いサーキットとは言えないけど、基本的にはクルマもエンジンも良いんだから、まずは自分たちのパッケージの全てを引き出すことが必要だね」(ピエール・ガスリー)

「ウチのクルマは低速コーナーが強いからバーレーンは合っているサーキットだと思うし、メルボルンでは暑いコンディションでコンペティティブだったからここの気候でもポジティブかもしれない。だから今週末もポイント獲得が目標だけど、嘘は言いたくないから正直に言えばそれはそう簡単ではないし、それを実現するためにはチャンスを最大限に活かす必要があると思う」(ブレンドン・ハートレー)

 空力アップデートを持ち込んだとはいえ、これは既存のバージボードにスリットを増やして空力効率をアップさせるもので、それほど大きな効果を期待していたわけではない。それよりも大きかったのは、新たなサスペンションセットアップを導入し、これが当たったこと。金曜フリー走行を8番手で終えたガスリーはこう言った。

「正直言って、アップデート自体にはラップタイム的には0.1秒以下の効果しか期待してしなかったんだ。かなり上手く機能してくれているように感じられるけど、クルマに対する効果がいかほどだったのかはもう少し詳しく分析する必要があると思う」

「でもとにかく今回の好走の理由は、アップデートよりもむしろセットアップの方だよ。バルセロナでいろいろなことを試して発見していた興味深い方向性のセットアップを実際に使うことができて、それが上手く決まってかなり気持ち良く走れる状態だったんだ」

 昨年からトロロッソが悩まされてきたリヤの不安定さは、STR13でかなり改善されていた。しかし中高速コーナーのエントリーからエイペックス、そして出口へと行くにしたがってマシンバランスが変わり、リヤのスタビリティが失われるような感覚残っていたとドライバーたちは言う。その問題点が新しいメカニカルセットアップによって大幅に改善され、ドライバーたちが攻めた走りをすることが可能になったとテクニカルディレクターのジェームス・キーは言う。

 これによってガスリーは予選で完璧なアタックを何度も決め、中団トップの予選6番手という結果をもぎ取って見せた。メルボルンで『7番手』を争っていたトロロッソは、バーレーンでは『4番手』まで浮上してきたのだ。

「昨日のフリー走行が良かったからポテンシャルがあることは分かっていたけど、いつも他チームが金曜から土曜にかけて大きく前進してくるのは分かっていたから、トップ10に入るのはかなり難しいと思っていたんだ」

「予選ではできるだけその近くまでいければ良いなと思っていただけだよ。それがまさか予選6番手、5番グリッドからスタートなんて、本当に素晴らしい1日になったね。Q3最後のラップを終えた時点で『よし、自分の持てる力は全て出すことができた』と思えたんだ」

 決勝でも序盤にハースのケビン・マグヌッセンに追い立てられる場面があったが、これはバーチャルセーフティカー(VSC)明けにすぐさま解除されたDRSを使って一気に迫られたもの。

 それでもガスリーはターン11ではアグレッシブにラインを譲らずマグヌッセンを弾き出し、続くターン1では一度インに飛び込まれて抜かれたものの、それを予期してターン1を目一杯アウト側から立ち上がり重視でクリアしてターン2のアウト側に並びかけマグヌッセンを再び抜き去って見せた。

 GP2のレースやテストで走り込んでおり勝手知ったるバーレーンで、ガスリーの走りは冴え渡っていた。

 その後は徐々にハースやルノー、マクラーレンを引き離していき、戦略も完璧に決めた。ルノーPU勢が燃費に苦しんだのに対して集団の先頭を走り空気抵抗を浴びる不利な立場ながらガスリーは燃費もさほど問題にせずハースを10秒、ルノーとマクラーレンを20秒も引き離して4位でチェッカードフラッグを受けてみせた。

「ロングランが速いのは分かっていたしルノーやマクラーレンとは戦えると思っていたよ。その上で全力を尽くしてチャンスを掴みたいと思っていたんだ。でも4位でフィニッシュできるなんて想像もしていなかったね。もちろん上位で3台のリタイアがあったことは確かだけど、クルマの仕上がりはファンタスティックだったし、実際にペースはすごく良かった」

「とにかくレースは後ろとのギャップ、燃料だったりバッテリーだったり色んなことを考えながらだから精神的に大変だったし冷静でいるのは大変だった。とにかくベストを尽くせるように、目の前のドライビングに集中しようと懸命だったよ」

 ガスリーが言うように、結果的に4位を手にしたのは上位勢の自滅あってのことだが、トロロッソ・ホンダが3強に次ぐ『4番手』のポジションを確固たるものとしたことは確かな事実だ。

 バーレーンのコース特性と中高速コーナーを向上させる新セットアップがもたらした躍進だが、中高速コーナーがさらに多い上海ではその真価が問われる。テクニカルディレクターのキーは「新セットアップはまだ熟成の必要があり上海では少し弱い」と苦戦を予想する。中高速コーナーの速さを磨くためには、まだ手薄となっている空力面の開発も必須だ。ダウンフォースを付けるためには、ドラッグと戦うためのパワーも必要だ。

 今、中団グループは5~6チームが1秒以内にひしめくような大混戦であり、0.1秒でポジションがいくつも変動してしまうような状況だ。だからグランプリ週末ごとに勢力図は大きく変動しうる。そんな中で今後トロロッソ・ホンダがどんな活躍を見せてくれるのか、非常に楽しみにさせてくれるバーレーンGPの快走だった。

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