壊された墓石

 郊外を散策していて、壊された墓石が多数積み上がっている場所に出くわした。石材業者の敷地。「○○家之墓」という金色の文字や戒名が刻まれた立派な石が、産業廃棄物と化してごろごろ。ショッキングな光景だ▲後日、業者に話を聞いた。壊された墓石は墓じまいの後始末だという。「墓を壊すような仕事なんて本当はしたくない。でも、墓を管理する負担を子どもに掛けたくないと、墓を閉じて納骨堂を選ぶ人がいるので仕方ない」。今や売り上げの1割が墓石処分の仕事だとか▲弔いに当たって、遠い先祖とのつながりより、身近な家族の思いを大切にしたい人がいる。納骨堂や散骨は、そんな人の選択肢。そういう時代になった▲一方、過去を探究する人にとって、墓は重要な手掛かり。昨年、千々石ミゲル墓所推定地の発掘が大きな話題になった。ミゲルがキリスト教を棄(す)てたという定説が見直しを迫られたのは、墓から信仰用具とみられるガラス玉が出土したからだ▲墓は、生きている人がそこに葬られた人に思いを寄せるよすがだ。たとえ無名の一個人であっても、数百年もたてば、墓石は当時の葬送や社会のありようを物語る歴史の証人になる▲数百年後の未来、壊された墓石を発掘した研究者は、一体そこから何を読み取るだろう。気になる。(泉)

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