金属行人(4月13日付)

 五月病という言葉は今でもよく使われるのだろうか。時期的にまだ早い気もするが、新しい環境になじめず、悩ましい気持ちを抱えている人は日本全国を探せば思いの外、少なくないに違いない。今年度の入社式挨拶で多数のトップが「コミュニケーションを大事に」「一人で抱え込まずに」と呼び掛けていたのは、入社直後を想定してのことではなく長い期間を俯瞰して大切な心得を説いたものと理解しているが、悩ましい気持ちを抱える新人にとっては胸に響く言葉ではないだろうか▼今年の入社式ではないが、とても印象に残った挨拶があった。そのトップは社会人としての心構え、会社組織における価値創造のダイナミズム、自社の社員に求められる基本姿勢を丁寧に説き、「今すぐ戦力になれとは言わないが、ある期間のうちに戦力になってもらう」と迫った。ある期間というのは世間一般の常識に照らして至極妥当と思えるものだった。その上で「戦力になれず、この会社が自分に合わないと思うならば、我慢することはない。互いのために別れよう」と呼び掛けた▼もちろん経営責任を放棄するのが意図ではないし、そんな人でもない。これはこれで胸に響く言葉だと忘れ難い印象が残っている。

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